トップページ  >  移植コラム  >  MediPress編集部コラム  >  腎移植後の運動 -運動の効果と方法- <後編>

MediPress編集部 コラム

  • 腎移植後の運動 -運動の効果と方法- <後編>

    腎移植後の運動 -運動の効果と方法- <後編>

<< 前編へ



■腎移植後の運動の種類や強度、頻度について


- 吉田先生は、腎移植後、いつ頃から運動を行った方がいいとお考えですか。

吉田先生

吉田先生:
移植手術後、2~3日目から歩いてもらい、6~7日でほとんどの患者さんがドレーンなどの管が抜けると思いますので、その時点から軽いウォーキングなどをしていただくのがいいかと思います。

松沢理学療法士:
吉田先生のおっしゃるように、ウォーキングであれば移植後1週間くらいから始めていいと思います。もう少し強度のある運動であれば移植後1~2カ月経過してから開始していただく方がいいと思います。


- 移植後、腎機能が安定した後にお勧めの運動はありますか。

松沢理学療法士:
やはり有酸素運動がお勧めです。中強度以上の運動をお勧めします。具体的に言うと、少しスピードが速いウォーキングです。メッツでいうと3メッツ以上がいいと思います。メッツ(METs)は「Metabolic equivalents」の略で、活動・運動を行ったときに、安静状態の何倍の代謝をしているかを表しています。安静時が1メッツ、入浴、ストレッチが2メッツ、普通の歩行、室内の掃除などが3メッツに相当します。

メッツ


出典:健康づくりのための運動指針2006<エクササイズガイド2006>(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/undou01/pdf/data.pdf


ウオーキング

3メッツ以上の運動ということなので、ウォーキングの強度としては、激しい息切れは生じないものの、少しきついと感じる、軽く汗ばむくらいの強度がいいと思います。逆にゆっくり歩くのはあまり効果がありません。



- 運動の頻度はどのくらいがいいのでしょうか。また運動の際の注意点はありますか。

松沢理学療法士:
運動時間は30~60分、頻度は週5回以上がいいでしょう。ランニングのような運動強度が高いものでなければ、やりすぎてしまうということはないと思います。
次の日に筋肉痛がある場合は少しやり過ぎかもしれないので、運動量を若干減らした方がいいと思います。また、腎機能の低下を認めた場合などは止めた方がいいでしょう。


- 高齢者の場合は、運動の強度を下げた方がいいのでしょうか。

松沢理学療法士:
60代で普通に日常生活を送っている方であれば、先ほどお話しした程度の運動は難しくないはずです。ただ、個人差があると思いますので、次の日の疲労具合などで判断して、減らす必要がある場合は減らしてください。
また、最初から30分以上行うのではなく、例えば10分程度から始めてみて、将来的に30分以上週5回を目指すというのがいいと思います。


- ウォーキングがいいということはよく分かったのですが、有酸素運動として一般的に勧められる水泳はどうでしょうか。

水中ウォーキング

吉田先生:
水中ウォーキングはいいですが、泳ぐ場合は、衛生状態がきちんと管理されている綺麗なプールで泳ぐようにしてください。腎移植者は免疫抑制薬を服用しているので、衛生管理が悪い温泉施設やプールなどに入ると、レジオネラ肺炎などの重篤な感染症を引き起こす可能性があります。充分に気をつけてください。
※レジオネラ肺炎:レジオネラという細菌の感染により引き起こされる肺炎。レジオネラは土壌や水環境に普通に存在する菌で、通常では感染症を引き起こすことは少ないものの、腎移植者がレジオネラ肺炎になると重症化しやすいため注意が必要。


- 筋力トレーニング、いわゆる“筋トレ“は行ってもいいのでしょうか。

スクワット

松沢理学療法士:
かかと上げ運動やスクワットなどの自重トレーニング(自分の体重を負荷として、ダンベルなどのおもりを使わないトレーニング)はいいと思います。ボディビルダーが行うような筋肉の肥大を狙った高強度の筋力トレーニングは腎機能の低下を引き起こす可能性がありますので、行いたい場合は主治医と相談してください。


吉田先生:
やりすぎは問題ですが、筋肉が落ちない程度の筋トレはむしろ必要だと思います。
筋肉があまりに増えると腎機能には良い影響はありませんが、筋肉量が増えたことにより上昇したクレアチニン値は、本当の腎機能を表してはいないと思います。実際、筋トレをしていた患者さんが筋トレを止めると、クレアチニン値が下がりますので、見かけ上の腎機能は改善します。
筋肉量が増えた結果、クレアチニン値が上昇してクレアチニンクリアランス※1が下がったときに、イヌリンクリアランス※2(本当のGFR)も下がるのかということを検証した研究はまだないと思いますが、おそらく筋肉量増加に伴う多少のクレアチニン値の上昇は、本当の腎機能とは関係が無いのではないかと思います。

※1 クレアチニンクリアランス:クレアチニンは筋肉でのエネルギーの供給源であるクレアチンリン酸の代謝産物。腎糸球体でろ過されたあと、ほとんど再吸収されず、尿へ排泄される。クレアチニンクリアランスは、血清中のクレアチニンのクリアランス(腎臓が身体の老廃物を排泄する能力)を計算し、腎機能を推定する検査。ただし、クレアチニンクリアランスは腎前性、腎後性因子によっても低下し、またネフローゼ症候群では高値を示すことがあり、年齢、筋肉量、運動などの影響を受けるため注意が必要。
※2 イヌリンクリアランス:イヌリンという人体に無害でかつ、体内に蓄積されない物質を利用した、国際的に標準法とされているGFR(糸球体濾過量)測定法で、本来の腎機能を示すと考えて良い。しかし、イヌリンは体内にない物質のため、静脈注射をして投与し、尿道カテーテルを利用することもあるなど、検査工程が複雑で、患者さんと医療者の双方に負担がかかる。


- 腎移植者にお勧めしない運動はありますか。

吉田先生:
移植腎を打撲したり、圧迫したりしてしまうようなスポーツ(例えばラグビーとか鉄棒など)は避けるようにしてください。


- ゴルフやヨガなど、腰をひねるスポーツを行っても大丈夫か、という質問を受けることがあるのですが。

吉田先生:
腰をひねって骨盤が折れることがないことからも分かるように、ゴルフやヨガなどはやっていただいて問題ありません。


- 特に運動した方がいい人はどのような人ですか。

松沢理学療法士:
生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満など)がある方は特に運動をした方がいいと思います。ただ、循環器系の疾患をお持ちの方は主治医と相談の上行ってください。


- 以前、MediPressで移植者の方を対象に行ったアンケートで、移植後どのような運動をしているかを聞いたのですが、その際の回答は以下のようになりました。
この中で、ウォーキング以外にもお勧めの運動はありますか。

オフィシャルアンケート運動の種類


松沢理学療法士:
ヨガはお勧めできると思います。また、太極拳は身体への影響に関するエビデンスがある運動です。一例として、太極拳がパーキンソン病患者さんの姿勢保持に効果があったという研究結果が、NEJM(The New England Journal of Medicine)という世界的に有名な医学雑誌にも載っています。


- 腎移植者にお勧めする運動としては、少し速いスピードでのウォーキングやヨガ、意外なところでは太極拳ということですね。水泳は運動としてはいいですが、感染には気を付けて行う必要がありますね。

吉田先生:
そうですね。移植後は主治医とも相談の上、ご自身に合った目標を定めて定期的な運動を行い、体力、健康を維持していきましょう。


LAST


お気に入り記事に登録

MediPress編集部 過去のコラム

この記事を見た人が読んでいるのは