腎移植後はどのような運動をしたらいいのでしょうか? また運動の頻度や強度はどのくらいがいいのでしょうか? 多くの腎移植患者さんが疑問に思う、移植後の運動の効果とその方法について、北里大学病院 臓器移植・再生医療学 教授 吉田一成先生と、リハビリテーション部 松沢良太理学療法士にお聞きしました。

腎移植後の運動が移植腎に与える影響

- まず、腎移植後の運動が移植腎にどのような影響を与えるのかについて教えてください。

松沢理学療法士:
実は移植後の運動が移植腎に良い影響を与えているのかという点に関しては、まだ日本にはエビデンス(客観的・科学的な証拠・根拠)がありません。
欧米の研究でも、移植後、早い段階で運動を開始し、その効果を検証したという研究は少ないのが現状です。そのため、移植後の運動療法が移植腎機能に対してどのような効果があるのか、ということはまだ明確には分かっていないのです。
ただ、私が実際に現場で患者さんの運動療法に携わっている中では、移植後の患者さんの運動療法には良い効果があるという印象は得ていますし、当院の移植にかかわる先生方も同じような印象をお持ちだと思います。


- 移植後の運動の効果については、まだ明確には分からないということですが、CKD(慢性腎臓病)保存期の患者さんの場合は、運動によって腎機能悪化のスピードを抑えることはできるのでしょうか。また、透析患者さんの場合はどうでしょうか。

松沢理学療法士

松沢理学療法士:
最近議論されているところではありますが、日本腎臓学会から出されている、「エビデンスに基づくCKDガイドライン2013」では、運動がCKDの発症・進展に影響を及ぼすか、については明らかではないとされています。
一方で、CKDのエンドステージである透析患者さんの場合は、運動療法の効果に関する数多くのエビデンスがあり、元気な40~50代の透析患者さんは、どんどん運動を行った方が予後にも良い影響があるということが分かっています。ただ、多くが欧米での研究結果に基づくエビデンスですので、高齢の透析患者さんの運動療法の効果に関するエビデンスはほとんどありません。
また、CKD患者さんの運動が、腎機能および尿蛋白に与える影響について検討しているものもほとんどないのですが、最近では、CKD患者さんでも活動性が高い人の方が腎機能の低下が抑えられるという研究結果も出てきています。CKD患者さんを、よく動いている人と、動いていない人で分け、その後の腎機能の低下率をみると、よく動いている人の方が腎機能の低下を抑えられているという結果が出ています(*1)
一方で、劣勢ではありますが、運動が腎機能の悪化を助長するのではないかという逆の研究結果もあります。しかし、高強度の運動をすると一過性に腎機能が低下する可能性がありますが、中強度くらいの運動を持続的に行うのであれば、仮に一過性に腎血流が落ちたとしても、腎機能を直接悪化させるものではないと考えられています。


- 移植後の患者さんはCKDの保存期の患者さんと同じだと思いますので、その点から考えると、運動をした方が移植腎にも良い影響があるのではないでしょうか。

松沢理学療法士:
そうですね。移植後の患者さんはCKDの保存期に戻りますので、最近のCKD患者さんの運動療法に関する研究結果を踏まえると、移植者も当然、運動習慣をもった方が良いと考えることができます。実際に運動が移植腎機能に良い影響を及ぼしているというエビデンスはまだ少ないですが、移植腎が患者さんご自身の腎臓と同じだと仮定していいのであれば、良い影響があるのではないかと考えられています。しかしまだまだ議論の余地がありますね。


- 移植後の患者さんの運動の効果に関しては、日本にはまだエビデンスがないということですが、海外における研究結果はありますか。

松沢理学療法士:
欧米では、移植後の運動による体力の回復や自律神経機能への影響を調べた研究もあり、運動療法を行った人は、行わなかった人に比べて、体力の向上や自律神経機能の改善がみられたという結果が出ています(*2)
また、移植後約1カ月の患者さんをターゲットとし、運動する群と運動しない群に分けて検証したところ、運動した群は、腎機能を悪化させずに体力(最高酸素摂取量)が向上したという報告もあります(*3)
この2つの研究結果からみると、移植後の運動は移植腎にどのような影響を与えているかはまだ分からないものの、体力の向上や自律神経機能の改善など、身体全体に対して良い効果があるのではないかと思います。


*1 J Am Soc Nephrol 25:399-406,2014
*2 Nephrol Dial Transplant (2013) 28: 1294–1305
*3 Transplantation. 2002 Jul 15;74(1):42-8

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