2018年4月に国立京都国際会館にて行われた第106回日本泌尿器科学会総会で、腎移植に関連する一般演題セッションを聴講しました。全国の腎移植施設から、日常診療の課題や施設間の情報交換を行う腎移植の一般演題プログラムが3つ組まれておりましたので、順に各施設からの発表について、トピックスをレポートします。
毎度のことではありますが、学会は日常業務の最中に行われるため、今回の学会でも、発表予定であった先生が、臨時手術などの理由で病院に戻らなければならなくなり、発表者が急遽変更になることがありました。そのため、一般口演の発表者の氏名は割愛させていただき、所属施設のみの記載といたしました。ご了承ください。

一般口演28  腎移植3 座長:荒木元朗先生(岡山大学大学院)

生体腎移植マージナルドナーに関する検討(大阪市立総合医療センター)

生体腎移植のドナーとして腎提供を行った後で、肥満、喫煙習慣、糖尿病、脂質異常症、飲酒、運動不足、といった腎機能悪化の要因をかかえる方が一部いらっしゃいます。そのようなケースに対して、腎機能の改善を目指して教育入院を行った経験を契機に、生体腎移植ドナーガイドラインにおける「マージナルドナー」の方々が、実際どの程度いらっしゃるのか、腎機能はそれ以外の方々と比べてどうだったのかについて調べました。
術後も定期的に外来通院されていれば、腎提供したドナーも腎移植を受けたレシピエントも術後の腎機能はそれほど悪化はしていなかったそうですが、80歳を超える高齢のマージナルドナーはどこまで許容できるのか、手術前に生活習慣の改善や定期的な運動などの努力目標をどう設定するのか、という論議がありました。最後に現在開始されているドナー登録による追跡調査について相川 厚先生より紹介がありました。
※マージナルドナー:以前はドナーとして対象とならなかった高齢者、糖尿病患者、高血圧患者などからの腎提供のこと


高ナトリウム血症はマージナルドナーからの献腎移植において予後不良因子となりうるのか?(藤田保健衛生大学)

肝移植や膵移植では、脳死ドナーの血液中のナトリウム濃度が異常高値となる場合は、臓器が障害を受けるので適応外とされますが、腎移植ではどうなのか、ということについて調査検討が行われました。脳死ドナーでは脳ヘルニア等で尿崩症と呼ばれるホルモン異常により、血清ナトリウム濃度が異常に高くなる場合があります。この影響で腎機能が悪化すると言われていますが、今回、日本臓器移植ネットワークの全国のデータを分析した結果、腎移植の成績に影響はありませんでした。米国のデータでも高ナトリウム血症は腎移植の危険因子には入っていないそうです。
※脳ヘルニア:ヘルニアとは、ある臓器が本来あるべき部位から脱出することをいう。頭蓋内圧が異常亢進すると、脳が本来あるべき部位から移動し、他の脳を損傷する。この状態を「脳ヘルニア」という。


Rituximab(リツキシマブ)使用ABO血液型不適合腎移植における急性細胞性拒絶反応と遅発性好中球減少症(大阪市立大学)

セッション2でも話題になったリツキシマブ投与後の遅発性好中球減少症についての発表です。そのメカニズムを考えると、白血球に作用するサイトカインと呼ばれる血中化学物質が、リツキシマブ投与で崩壊したBリンパ球から放出され、同時に拒絶反応も誘発しているという可能性があるようです。そうだとすると、好中球減少が起こった人に拒絶反応が多いことが考えられ、それを調査したところ、拒絶を起こした方に遅発性好中球減少症が多かったそうです。これは、リツキシマブ投与を行った方の方が血漿交換に対するアレルギー反応も多く出るメカニズムと同一のようです。大変重要な報告でした。
※リツキシマブ:分子標的薬(特定の細胞などに結合するように設計された薬)の1つで、Bリンパ球にあるCD20というタンパク質に結合する。リツキシマブが結合することで、抗体産生細胞である形質細胞のもととなるBリンパ球が減少し、その結果、抗体産生が抑制される。これにより、抗体関連型拒絶反応である超急性拒絶反応(腎移植後24時間以内に起こる)と促進性急性拒絶反応(腎移植後24時間以降~1週間以内に起こる)を抑制することができる。


当院における2017年献腎移植登録者の現況(岩手医科大学)

献腎移植希望登録者の定期検診におけるチェック項目について、81名の患者さんのデータを分析されました。最近は糖尿病腎症が原因疾患である方の割合が増加し、高齢化の傾向が認められます。
献腎移植を行う際に、肝硬変による食道静脈瘤の破裂の危険性がある方や、治療すべき疾患を放置されている方、心不全が進んでいて手術が危険で受けられない方など、登録継続が危ぶまれる方々の存在が指摘されました。セッション1でも述べられていましたが、2016年4月以降、移植希望施設で年1回以上の診察と評価を受けていない場合には、献腎移植希望登録を継続することができなくなります。


ハイリスクaHUSに対する2次腎移植治療(明神館クリニック)

非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)という難病に伴って腎不全をきたした患者さんに腎移植を行うと、そのまま何も治療しなければ、数時間のうちに腎臓に血栓ができ、腎移植がうまくいかないケースが報告されています。その治療薬としてエクリズマブという薬が使用できるようになり、以前は不可能であった腎移植を可能にする検討が行われています。この治療薬を投与して移植を行っても、移植腎の血栓症を完全には抑制することは困難で、血栓症の治療を重ねて行い、エクリズマブを再投与する必要がありました。ここでも遺伝子検査が有用とされています。


わが国における先行的腎移植の検討(新潟大学)

国内の腎移植登録システムのJARTRE‐Wから抽出した先行的腎移植の解析報告がありました。現在では日本における腎移植の30%以上が透析を経ない先行的腎移植になってきています。その特徴として、腎移植直後に腎臓が機能せず透析を回避できなくなるような症例が1例もないことがあげられていました。透析期間が長いと、生存率、生着率に差が出てきます。一方、先行的腎移植後、長期間が経過した後で腎機能を喪失する最大の原因は、腎臓が機能したままレシピエントが別の疾患で亡くなられる場合であり、その原因疾患は心血管系疾病、がん、感染症、脳血管障害、消化器疾患、という順序になっているということです。これらの疾患に気をつけて健康を維持することが重要であるようです。


Pfannenstiel reduced port surgeryによる腹腔鏡下ドナー腎採取術(大分大学)

下腹部に横に傷を作り、そこから内視鏡手術器械を入れて、臍などに細い鉗子を入れて傷をできるだけ少なく、小さくしてドナーの負担を軽くする方法について、16名の手術経過を分析されました。腎臓の血管を安全に処理して腎摘出を速やかに行うために、血管処理鉗子は臍の部分から挿入せざるをえないため、臍の傷は太めの内視鏡を入れる穴を開ける必要があるようでした。


耐糖能異常対策を含めた高齢者生体腎移植の検討(愛媛県立中央病院)

65歳以上の高齢レシピエントに対する腎移植について、特に糖尿病対策を中心に検討されました。単に年齢が高齢であるだけで腎移植が危険というわけではなく、しっかり検査をして手術の準備をすれば、その他の場合と比べて安全に腎移植が行われていました。安全性に影響する要因としては喫煙、肥満、長期透析、糖尿病という条件が認められました。平均余命によっては移植腎の機能が良好のまま他の疾病で生存率が落ちてしまう場合もあるようです。感染症を減らすためにステロイドを早期に中止してエベロリムスを投与するなどの工夫が行われているとのことです。