2018年4月に国立京都国際会館にて行われた第106回日本泌尿器科学会総会で、腎移植に関連する一般演題セッションを聴講しました。全国の腎移植施設から、日常診療の課題や施設間の情報交換を行う腎移植の一般演題プログラムが3つ組まれておりましたので、順に各施設からの発表について、トピックスをレポートします。
毎度のことではありますが、学会は日常業務の最中に行われるため、今回の学会でも、発表予定であった先生が、臨時手術などの理由で病院に戻らなければならなくなり、発表者が急遽変更になることがありました。そのため、一般口演の発表者の氏名は割愛させていただき、所属施設のみの記載といたしました。ご了承ください。

一般口演26  腎移植1 座長:石田英樹先生(東京女子医科大学)

腎移植後糖尿病の発症率・発症危険因子の検討(東京女子医科大学)

腎移植を受けた方の経過に大きな影響を与える移植後糖尿病が発生する要因について、東京女子医科大学泌尿器科・大久保病院・戸田中央病院にて腎移植を行った方を対象に検討されました。
元々糖尿病が無かった方で、タクロリムス主体の免疫抑制療法を受けている887人の腎移植患者さんについて、どのような要因が移植後の糖尿病発症に影響するのかを調べました。患者さんの背景として高齢・肥満・タクロリムスの血中濃度が高い・ミコフェノール酸モフェチルを使用していない、という条件が、移植後糖尿病発症の危険因子として検出されていました。これらの組み合わせで年齢・肥満度を調整すると、ミコフェノール酸モフェチルを内服しておらず、タクロリムスの血中濃度が高い場合に、移植後糖尿病に要注意、ということになります。
会場からは、理由やメカニズムについての質問があり討議されていました。


廃用性萎縮膀胱におけるステントレス移植腎尿管固有尿管吻合術を施行した2例(国立成育医療研究センター臓器運動器病態外科部)

通常の腎移植では、移植腎の尿管と、レシピエントの膀胱を吻合しますが、無尿で使われなくなったために萎縮したレシピエントの膀胱(廃用性萎縮膀胱)に移植腎の尿管を吻合することは困難なことが多く、その場合は移植腎の尿管とレシピエントの尿管を吻合します。尿管は細いので尿管ステントと呼ばれるシリコン管を一定期間入れておき、手術後に抜くことになります。しかし小児では抜くための麻酔が必要になることが多いので、ステントを入れずに手術を行う方法を報告されていました。腎移植以外の小児泌尿器科手術の場合と同様に、尿管尿管吻合時にステントを用いない方法は、安全で経過も良好のようでした。
会場からは、その具体的方法について質問があり、もともとの腎臓は摘出するべきかどうかについて討議されていました。腎臓は摘出せずに残したまま、移植尿管を横付けするように吻合することで対応できているようです。


当科における腎移植周術期の輸液管理の検討(市立札幌病院 腎臓移植外科)

腎移植手術を行った直後の腎機能回復期には「利尿期」と呼ばれる尿量増加状態があり、体液バランスが不安定になります。尿量が1日10Lを超えるような状態になることがあるので、脱水を防止するために大量の点滴を行います。2時間毎に尿量を計測し、次の2時間は尿量の80%量の点滴をし、その後も細かく点滴量を調節しながら、数日間で尿量が通常の1日2~3Lになるまで管理します。
この方法を変更し、点滴量を尿量の40%量に減らして、脱水にならないように末梢動脈圧測定を用いたモニタリングを併用したところ、安全に術後管理が行えたという報告でした。
新たな方法で点滴設定をした数十例における腎機能の改善程度には問題がなく、40%量の点滴設定によって、安全に術後2日間の点滴の量を減らすことができ、過剰な点滴による肺や心臓のうっ血は認めませんでした。
会場からは、手術翌日に体重を測定すると3kg前後の体重増加になっている場合が多いことや、術後2日目以降の安定期における点滴量についての質問があり、討論が行われました。


当科において自家腎移植を施行した2例の検討(獨協医科大学越谷病院)

腎臓の機能を温存しつつ、腎動脈瘤や悪性腫瘍といった腎臓の疾患を治療しなければならない場合に、いったん腎臓を摘出して、腎移植と同じように灌流を行い冷却し、体外で患部を治療してからまた身体に戻す、という自家腎移植の方法を取った手術治療について報告されました。
過去の腎摘出手術のために1つしか残っていない腎臓に悪性腫瘍が出来た場合の方法については、悪性腫瘍の根治のために腎摘出を優先して術後から透析を行うべきか、自家腎移植で腎機能を残して透析を回避すべきか、で論議が行われました。幸いこの報告の2例の方は手術後の経過は良好で、透析を回避できているとのことでしたが、腎臓の疾患により腎部分切除術や腎摘出術、自家腎移植、透析治療などの治療オプションを適切に選択していくことが重要と思われました。


エベロリムス早期導入免疫抑制を適応した腎移植における多剤併用免疫抑制法(市立釧路総合病院)

比較的新しい免疫抑制剤であるエベロリムスには他の免疫抑制剤とは異なる特徴があります。さまざまな副作用を有するステロイド剤を早期に中止するために移植後3日目以降からステロイドに替えてエベロリムスを投与した症例について、安全性と有害事象を検討しました。この方法を適用した10名のうち9名で安全にステロイド剤の中止が可能で、10名ともエベロリムスを内服継続できていましたが、移植後長期間ステロイド剤を中止していることで、元々の腎臓病の再発が起こる危険性はないか、腎臓の繊維化や慢性拒絶反応が起こってこないかどうか、移植後糖尿病や脂質代謝異常症の合併は大丈夫か、まだ未解決の部分があり、会場からの質問で意見交換が行われました。


移植後糖尿病を発症した腎移植症例の検討(自治医科大学 腎臓外科学部門)

自治医科大学で14年間に行われた腎移植303例のうち、移植後糖尿病を発生した13症例について、どのような特徴があるかについて検討されていました。移植後糖尿病が移植後どのぐらいの期間で発生することが多いのかについては、移植後1年未満の比較的早期に起こるケースが多いようで、血液型不適合腎移植などでリツキシマブを使用した症例にやや発生率が高かったようです。糖尿病を発症した場合でも、幸い重症度は軽く、速やかに治療が行われており、移植腎廃絶や生命に影響したケースはなく、腎機能は良好に経過していました。共通の問題を抱える全国の先生から、治療の詳細やリツキシマブとの関連性について質問が上がっていました。


東京女子医科大学病院における献腎移植希望登録者と献腎検診の現状(東京女子医科大学)

2016年4月以降、献腎移植希望登録の更新を行うためには移植希望施設で年1回以上の診察と評価を受けることが必須になっています。1,415人という多くの献腎移植希望登録者の検診の現状について、東京女子医科大学から報告がありました。平均年齢51.8(4~81)歳の全登録者の中での最長登録期間は43年だそうです。また、登録者全体の15.2%が腎移植経験者ということでした。毎年の定期検診を受けられている方は86.3%で、残りの未受診の方は腎移植を受けた経験のない長期透析患者さんが多いそうです。
未受診の方の中で、実際に検診をした場合、血管の石灰化などで腎移植手術は危険性が高いと判断される方々について、どのように検診の働きかけをしたらいいか、という難問について会場でも論議が交わされました。また、検診自体の精度を上げて安全に献腎移植が行われるように、登録継続のための検診基準をしっかり作ることが必要であると認識されました。