臓器移植の現場から シリーズ1回目では「献腎移植登録の方法」についてお話ししました。今回は、「献腎移植登録後はどの様なことに注意して、移植の機会が来るのを待てばよいのか」について、お話ししたいと思います。

1.移植までの待機期間が長い理由

腎臓の提供があったときに、どのようにレシピエント(移植者)が選ばれるのかは、シリーズ1回目で説明いたしました。現在の選択基準では、成人の患者さんは献腎移植を受けるまでの待機期間が平均約15年となっています。なぜ、こんなに待たなくてはいけないのでしょうか?それは、移植を待っている方の数に比べ、圧倒的に腎臓の提供数が少ないからです。
献腎移植を待っている方は12,000名余り、一方、死後に腎臓を提供される方(ドナー)は年間100名ほどです。腎臓は2つあるので、通常1名のドナーがいれば2名のレシピエントに移植されます。年間100×2=200腎の移植が行われると計算すると、献腎移植を受けられるのは待機者12,000名のうち200名、1.7%です。
実際の数をみてみると、2011年では112名(脳死からの提供44名、心停止後の提供68名)のドナーから、献腎移植を受けた方は182名、1型糖尿病による腎不全患者さんが対象となる膵臓と腎臓の同時移植を受けた方は29名いらっしゃいました。

15年間…本当に長い時間だと思います。この間、何度か「献腎移植の候補に挙がっています」と連絡が来る人もいれば、連絡がまったく来ない人もいます。それはなぜなのでしょうか?
献腎移植では組織適合性型(HLA型)がレシピエント選択基準の1つになっていることは、シリーズ1回目で説明いたしました。HLA型の組み合わせは星の数ほどあり、どんなHLA型を持つドナーが現れるかによって、自分が移植の候補にあがるかどうかが初めて決まります。従って、その時々によって、順位は異なります。例えば、あるときは3番目であっても、次のときは10番目になることもあります。
移植希望登録している人が、日本人に多いHLA型を持っていれば、移植の候補リストに挙がる可能性が高くなりますが、同じようなHLA型を持っている登録者も多いので、実際に移植の順番が回ってくるまでにはかなりの期間待たなければならないかもしれません。 逆に、移植希望登録している人が、日本人には珍しいHLA型を持っている場合、合うドナーが出れば比較的短い待機期間で移植が出来る可能性もありますが、同時に自分に合ったドナーが出る頻度は少ないでしょう。
骨髄移植でも腎移植と同じようにHLA型を合わせますが、骨髄移植を希望する全患者に対応するためには全国で約30万人のドナー登録が必要だと聞いたことがあります。

HLA

献腎移植に関与するHLA型は3種類(A、B、DR)です。それぞれ2個、計6個の組み合わせで献腎移植のレシピエントを選びます。組み合わせは膨大な数になります。
たとえば、両親がHLAのA・B・DRの1つずつを1組として合計で2組のHLAを持っていると、その子供は父親の1組と母親の1組を遺伝的に受け継ぐため、4通りの組み合わせができます(図1)。つまり、兄弟姉妹間では4分の1の確率で同じHLAタイプを持つことになります(一卵性双生児ですとまったく同じHLAを持っています)。
これが他人となると、その組み合わせは膨大で、同じHLAタイプを持つ人は、およそ1万人に1人、日本人同士でも、HLAタイプにもよりますが、確率的には50人から1000人に1人しかいないことになり、他人間でHLAのタイプが合う人を見つけることはとても大変です。

このことからも、献腎移植希望登録者12,000名に対し、年間100名ほどの献腎ドナーでは、なかなかHLA型が合う(マッチする)のが難しいことは理解できるのではないでしょうか。

HLA

なお、献腎移植の場合、HLAの適合はミスマッチが少ないほど点数(ポイント)が高くなります(表1)。

また、献腎レシピエントの選択基準では、ドナーとレシピエントのABO式血液型は適合よりも一致が優先ですが、移植待機者の人数がドナーに比べ圧倒的に多いので、ABO式血液型一致での移植がほぼ100%となっています。

ABO血液型

ドナーの血液型の出現度は、日本人の血液型分布と概ね合致しています。960名の心停止後の献腎ドナーのうち、A型 38%、B型 22%、O型 30%、 AB型 10%でした(日本臓器移植ネットワーク.臓器提供・移植データブック2007年.222頁)。
 日本人の血液型は概ね、A型 40%、B型 20%、O型 30%、AB型 10%なので、ドナーの発生頻度もだいたい同じだということが分かります。 また、移植を希望する方の分布も同様です(表2)。

骨髄移植が30万人のドナー登録を目標としているように、献腎移植でも十分な献腎数があれば、HLAのマッチングや血液型別分布に関わりなく、待機の期間が長期化することなく、移植を受けることができるでしょう。移植医療の発展のためには、献腎数の増加が大前提です。

2.献腎移植登録後に注意すること

移植登録後は年1回、更新の案内が日本臓器移植ネットワーク(以下、移植ネットワーク)から送られます。A4サイズの青い封筒(2012年1月現在)で、登録して丸1年を越えた後の1月下旬頃、翌年度分の更新に関する案内が移植ネットワークに登録している住所に届けられます。
例えば、最初の登録日が2011年10月15日であれば(2011年度登録)、最初に更新の案内が来るのは丸1年後の次の1月、つまり2013年1月で、これは翌年度分(2013年度)の更新手続きのためのものです。その後は、登録を継続している限り、毎年1月に案内が送られてきます。

登録用紙

更新用紙(図2)には、更新の希望の有無、住所や電話番号、合併症の記載欄などがあります。
更新用紙に記載が必要な項目の中でも、特に電話番号は重要です。移植の連絡は深夜・休日を問わず、24時間365日行われます。旅先で連絡を受けて、旅行をキャンセルして移植を受けた方もいらっしゃいました。
本人の自宅や携帯の電話番号のみならず、家族の携帯、会社などの複数の電話番号を登録しておくことは、いざという時の連絡ではとても役立ちます。
心停止後の献腎の場合、腎摘出後に移植の連絡が行われることがありますが、この場合時間的猶予がありません。移植候補の連絡開始後、一定時間を越えても連絡がつかない場合、候補から外されることもあります。ドナーの心停止から24時間以内に腎移植を行わないといけないため、数少ない献腎を有効に生かすためには、上位候補に連絡がつかない場合は下位の候補に機会を回す必要があるからです。
夜間は熟睡できるように電話の呼出し音がしないようにしていらっしゃる方もいると思いますが、献腎移植登録後はぜひ、24時間365日いつでも電話を受けられるように心構えをしていただきたいと思います。

更新に際し、献腎移植施設の受診が必須な地域もあります。更新に必須でなくても、登録後は少なくとも1年に1回は、体調管理や適応評価のためにも献腎移植施設を受診してみてはいかがでしょうか?移植後の外来を兼ねている病院が多いので、受診の際に実際に献腎移植を受けた方と知り合うことが出来、お話を聞けるかもしれませんし、移植に関する勉強会の案内が掲示されているかもしれません。情報収集の意味でも、移植施設の受診は良い機会になると思います。
透析治療を受けていた時と同様に、腎移植後も自己管理が重要です。長期間の待機を経て、初めて献腎移植の機会が来る現在、登録していること自体忘れてしまうかもしれませんが、1年に1回の更新手続きは献腎移植登録をしていることを思いだす良いきっかけになるでしょう。

また、実際に移植の候補にあがったという連絡が来た時に、「はい、移植を希望します」と答えられるようにするには、日頃の自己管理や調整が必要となります。
例えば、心機能や肺機能の低下がある場合、全身麻酔をかける事が出来ずに、移植を見送らないといけない場合もあるでしょう。胃潰瘍などがある場合も、移植後の免疫抑制で悪化することもあります。歯肉炎、風邪なども軽く考えがちですが、感染症として術後の免疫抑制の影響を受けるため、移植の禁忌となることもあります。こう考えると、日頃の自己管理や合併症の治療がどれだけ重要か、分かっていただけるのではないかと思います。
また、会社勤務をしている場合、移植を受けて職場復帰するまで数カ月休むのが通常ですから、日頃から職場の理解を得ておくことも不可欠です。実際、就職環境の厳しいご時世ですので、移植の候補にあがっても「今、何カ月も休むとクビになってしまう」と移植を見送らざるをえない方も、残念ながらいらっしゃいます。週3日の血液透析のために早退していることで、すでに気後れしている方も多いことでしょう。しかし、移植後も定期的な外来通院や合併症の入院加療もあるので、休むことはあり得ます。移植後も仕事を継続できるように、職場の理解を得ておく努力を事前にしておくことは、とても重要だといえます。

『これを見ればすべてがわかる腎移植2011 Q&A』(企画 NPO法人日本移植未来プロジェクト.編集 打田和治・渡井至彦・後藤憲彦.東京医学社 2011年)では、とてもわかりやすく、腎移植全般について説明されています。その中に、「腎移植希望登録後の生活  Q:登録後はどんな心構えで生活をしていればいいのですか?」という項目がありますので、参考になると思います。

次回は、「献腎移植の候補になった場合の実際の流れ」を物語形式でお話ししたいと思います。