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若井 幸子先生 コラム

日本は超高齢社会を迎え、腎不全患者の高齢化も進んでいます。そのため、高齢で透析導入される方や、腎移植を受ける方、高齢の生体腎ドナーも増えています。今回は、特に高齢の生体ドナーが注意しなければならない点について、具体的なデータと一緒にみていきましょう。


■腎移植時の年齢の高齢化


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透析導入に至る原疾患として、1998年以降、慢性糸球体腎炎と糖尿病性腎症が入れ替わりました。また、高齢化に伴い腎硬化症が増加しています(図1)。



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これは、腎炎の治療の進歩により、若年層に多い糸球体腎炎では透析を回避できることが多くなったものの、糖尿病や、腎硬化症など年齢的変化による疾患では透析の回避が難しいことを表しています。実際に、高齢化による腎不全は増加しています(図2)。



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また、2000年以降、免疫抑制剤の進歩により、夫婦間の腎移植が増えてきています(図3)。



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年齢別で見たドナー、レシピエントの推移では、ドナーもレシピエントも60歳代、わずかですが70歳代が増加してきています(図4)。
昔は血液型、HLAタイピングを一致させた親子、兄弟間の腎移植が主流でしたが、高齢夫婦間の腎移植も増えてきており、腎移植のイメージが変わりつつあると言えます。


高齢者の腎移植が増える中で、高齢の生体腎ドナーはどのような点に気を付けなければならないのでしょうか。腎提供前の評価から腎提供後の注意点までをみていきましょう。


■腎提供前のドナーの評価

腎提供していただくためには、ドナーが健康であるという確証が必要です。そのため、感染症や悪性腫瘍の有無、さらに、腎臓を1つとっても良いかどうか、両腎の腎機能評価を行います。これらの検査で病気が見つかる方もいるので、まず、ドナーの方が治療をしてから腎移植へ進むということもあります。
お酒や喫煙は健常者でも臓器に対するダメージがあります。微量アルブミン(※)尿など、一般的な検診では項目にない検査で、異常が出ることもあります。ご自分は健康だと思っていて、お子さんや配偶者に腎提供したいと思っていたのに、断念しなければならないケースもあります。ドナー候補となる可能性があるときは、アンチエイジングレベルの健康を意識しておくことも必要かもしれません。
※アルブミン:血漿蛋白の約6割を占める蛋白質。


■マージナルドナー(Marginal Donor)とは


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ドナーが生涯にわたり、健康で過ごすことができるように、世界的にドナー適応基準が定められていましたが、2014年、ドナー不足の日本において独自のマージナルドナー基準(図5)が定められました。マージナルドナー基準では、年齢は70歳以下から80歳以下に、腎機能はGFR(糸球体濾過率)80 ml/min/1.73m2以上から70 ml/min/1.73m2以上に、高血圧や糖尿病は罹患無しから軽症に、基準が緩和されています。



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マージナルドナー基準ぎりぎりの方(複数の因子を持つ方など)は、術後、確実に慢性腎臓病G3(図6)となりますので、定期的な外来フォローが必須となります。
マージナルドナーの長期成績やマージナルドナーからの腎提供を受けたレシピエントの成績については、今後のデータの蓄積を待つ状況です。


■ドナーの腎機能

腎提供前(術前評価)

正確な腎機能の評価は、非常に難題です。日常診療ではクレアチニン(Cr)を用います。Crは筋肉で産生され、腎臓の尿細管での再吸収や排泄なく糸球体から排泄されますが、Cr値は筋肉量や運動量、また血管内の水分の状況(脱水状態、希釈状態)により変化します。このCr値から日本人のeGFR(推算糸球体濾過率)を算出して腎機能としています。


↑(図7)クリックすると大きい画像が出ます

筋肉の影響を受けないシスタチンCからもeGFRを算出できます。より正確な腎機能の判定には、Crの血清、尿中濃度比からクレアチニンクリアランス(Ccr)を測定したり、さらに、体内には存在しないイヌリン(糸球体からのみ排泄される)を点滴注入したりして、イヌリンクリアランス(Cin)を測定することがゴールドスタンダード(診断や評価の精度が高いものとして広く容認された手法)とされていますが、採尿・採血の手技が煩雑で、高齢者ではばらつきが出ることもあります(図7)。分腎機能(左右別々の機能)を見るためには、核医学検査※をします。特にマージナルドナーでは正確な腎機能の評価が求められています。
※核医学検査:微量の放射線を出す放射線医薬品を体内に投与し、放射線医薬品が目的とする臓器や組織などに集まる様子を画像化して、診断や治療効果の判定などを行う検査。


腎提供後(術後)


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腎提供後、腎機能は提供前の50%になります。その後、残った腎臓の予備能が働き、腎機能は50%よりも高くなることが知られています。eGFR>60 ml/min/1.73m2であれば、健常人と同様と考えてよいですが、片腎であり、慢性腎臓病G1またはG2(図6)に分類されます。
当院の、60歳未満と60歳以上の高齢者で、術前・術後の腎機能を比較した結果(図8)をみますと、高齢者はマージナルドナーであり、術後eGFRは30~40ml/min/1.73m2で慢性腎臓病G3(図6)となり、CKD患者としてのフォローが必要だということが分かります。


■腎提供後のドナーの生活・注意点

昔は、腎臓は1つでも健常人と同じであると考えられていました。しかし、腎機能をより精密に評価し、短期のみではなく長期に渡って経過観察することにより、腎臓が1つであることはやはり腎機能は半分であり、慢性腎臓病の疾患概念と重症分類(2012年CKD重症度分類ヒートマップ:図6)が確立され、管理目標が明確になることによって、ドナーもレシピエント同様に慢性腎臓病としての管理が必要であると考えられるようになりました。
腎臓は1つあれば支障がないと考えられていた時代では、数十年後にドナーが透析導入になったという報告もあります。そのようなことを含めて、2014年に出された生体腎移植ドナーガイドライン(日本移植学会・日本臨床腎移植学会、その他関連の腎臓・透析・糖尿病など複数学会の意見を参考)には、生体腎ドナーのフォローアップが義務付けられています。

生体腎ドナーはもともと腎臓に病気があるわけではありませんので、腎提供後、eGFRがどんどん低下してしまう心配はありません。ただ、腎臓は血管の塊であり、血管は年齢と共に老化するため、動脈硬化に注意する必要があります。動脈硬化の危険因子に注意を払い、気付かぬうちにeGFRが低下していた!(透析導入の原疾患で増加している腎硬化症とは、高齢者に多いそのような病気です。)ということがないように、経過を観察することがとても大切です。
高血圧、高血糖、脂質異常症、高尿酸血症、肥満など危険因子が出てきたときは、食事療法・内服薬で早めにコントロールします。フォローは腎臓内科でするとよいでしょう。 以前に述べた過剰濾過防止の観点からも、慢性腎臓病の管理においては、食事療法が基本です。お酒は控えめにして、禁煙が原則です。

また、腎臓のほかに、もう1つのイベント(悪性腫瘍(手術・化学療法)・重症感染症・大きな手術・造影剤使用検査・鎮痛剤長期使用・熱中症など)が、腎臓に負担となることがあります。これらのイベントがなければ腎機能は安定しています。

腎提供後は1年に1回はドナー外来を受診し、10年、20年と長期にわたって腎機能のチェックを行うようにしましょう。


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