過剰濾過説は腎臓病を語る上で、もっとも大切な考え方で、1981年Brennerという人が提唱したもので腎臓機能が悪化するメカニズムを説明するものです。
この説の要点は腎臓の80%が破壊されると残された腎臓に大きな負荷がかかり、この過剰負荷だけで次第に腎臓の機能が失われていくということです。これはすべての腎臓病に共通で、ある程度腎機能が低下してくる(尿を濾過する役割を持つ糸球体の数が少なくなってくる)と、残された糸球体に過剰な負荷がかかり、最終的には腎臓は硬くなってしまい、いわゆる糸球体硬化から腎不全に陥ることになります。
多量の蛋白質を摂取することによっても同じようなことが起こります。実験的に高蛋白食を食べさせたラットのほうが、腎不全の進行が早いこともわかっています。昔は、多量に蛋白尿が出るネフローゼ症候群の患者さんに、高蛋白食を処方していた時代もありましたが、現在では、ネフローゼ症候群の患者さんにも低蛋白食を処方しています。実際、ネフローゼの患者さんでも、低蛋白食にしたほうが蛋白尿は減少します。
三大栄養素は窒素を含みますが、でんぷん・脂肪は窒素を含んでいないため、体の元を作ることはできません。すなわち、蛋白質は体の元を作り、筋肉や血液の生成に必要な栄養素ということができます。体重が一定なら、過剰摂取された蛋白質に含まれる窒素は、体に利用されることなく尿素窒素となって腎臓から排泄されます。このように余分な蛋白質摂取により、腎臓は尿素窒素を過剰に排泄しなければならず、腎臓に過剰な負荷がかかります。
病気の初期から腎臓に過剰な負荷がかかりやすい代表的な疾患は、糖尿病と巣状糸球体硬化症といわれる腎炎です。移植腎も過剰濾過に気を付けるべきであると考えられます。特に体格の小さな方から大きな方への移植、高齢者(糸球体の数が減っていることがあります)からの移植などは、蛋白の過剰摂取による腎臓への負荷を減らすようにすべきでしょう。
この過剰な腎臓への負荷を防ぎ、腎機能の低下を防ぐにはどのようにすればいいのでしょうか?
1. 蛋白質の過剰摂取をしない。
日本腎臓学会は2007年、腎臓病の人に対する食事療法の指針として、CKD食事療法基準(表)を示しています。一般成人蛋白質摂取推奨量は0.93g/kg/dayとなっていますので、体重50kgの人で1日の望ましい蛋白摂取量は約50gといったところです。
2. 降圧剤としてACE阻害薬、ARBを服用する。
これらの薬剤は体全体の血圧を下げるだけではなく、糸球体血圧を下げて、腎臓への過剰な負荷を防ぐ働きがあり、腎保護作用があるといわれています。腎内科医は蛋白尿減少効果を期待して、血圧があまり高くない方にも積極的に使用しています。