市立札幌病院
市立札幌病院 腎臓移植外科 インタビュー
市立札幌病院では1985年から腎移植が開始され、これまでに800例以上の腎移植が行われています。腎臓移植外科の田邉起先生と佐々木元先生、はらだ腎泌尿器クリニックの原田浩先生に、市立札幌病院における腎移植医療の特色についてお聞きしました。(取材日:2019年10月17日)
腎臓移植外科の特色
まず、腎臓移植外科の特色についてお聞きかせください。
田邉先生:
当院では年間約40例の腎移植を行っており、年間移植件数としては、全国で5~6位にランクする北海道・東北地方で最大の腎移植施設です。移植を希望される患者さんは札幌市以外にも、函館市、帯広市、旭川市など、道内のさまざまなエリアから来院されています。
腎臓移植外科の特色は、その名の通り、腎移植に特化した診療科ということです。移植医、腎臓内科医、泌尿器科医、病理医、レシピント移植コーディネーター(RTC)、看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士、理学療法士、管理栄養士、医療事務などの専門家が集まって腎移植チームを構成し、術前から入院、手術、術後のフォローアップまで、レシピエントやドナーとそのご家族が、安心して治療を受けられる体制を整えています。
腎移植チームにおけるそれぞれの役割において特長的な点はありますか。
田邉先生:
まず、当院には2名のレシピエト移植コーディネーター(RTC)がおりますが、RTCは移植手術前の外来診察や術前検査のマネジメント、移植準備のサポート、移植手術後のフォローアップまでさまざまな対応を行っています。移植前は、患者さんやドナー候補の方、そのご家族が安心して、納得して手術に臨めるようにサポートをしています。移植後は、移植に関する研修を受けた外来看護師とともに、外来時の患者さんの対応はもちろんのこと、患者さんからの電話での問い合わせにも対応してくれ、判断に迷うことがあれば我々医師に確認して回答してくれます。患者さんにとって、困ったときに電話で問い合わせができるというのは、とても安心感があると思います。
また、当院では、レシピエントは移植手術後1、3、6、12カ月のタイミングで入院して検査を受けていただいており、そのような徹底した移植後フォローアップも特長の1つですが、その検査入院の際も、病理部門と薬剤部の協力により、迅速な診断と患者さんの状態に応じたフォローアップが可能となっています。
当院の病理部門は道内外の多くの病院から腎臓・移植腎診断を依頼される腎生検のハイボリュームセンターです。いつでも迅速に診断してくれるため、拒絶反応やその他の異常が起こっていても早期に発見し、治療を行うことができます。
また、移植後に服用し続ける免疫抑制薬は体内動態(薬剤が体内に投与されてから排泄されるまでの過程)に個人差があり、治療域(薬剤が効果を発揮しつつ、容認できない毒性が起こらない濃度範囲)も狭いため、TDM(血中の薬物濃度のモニタリング)が必要ですが、当院の薬剤部は、検査入院の際に適切な免疫抑制薬の服用量を提案してくれます。それによって、患者さんの個人差に配慮して個々人に最適な医療を提供する、テーラーメイド医療が可能になっています。
移植後のフォローアップにおいて腎臓内科とはどのような連携をされていますか。
佐々木先生:
腎臓内科の先生には毎週腎移植チームのカンファレンスに参加していただき、移植後のフォローアップについてもサポートしていただいています。当院は生着年数が長いレシピエントが多いので、移植後、腎炎が再発した患者さんなどは、必要に応じて腎臓内科と腎臓移植外科を併診してもらっています。
生体腎ドナーへの対応はどのような点に気を付けていらっしゃいますか。
佐々木先生:
当たり前のことですが、生体腎ドナーの適応は厳密に判断しています。ドナー候補者は、腎機能はもちろんのこと、糖尿病やその他の病気のチェックを厳重に行っています。また、移植手術の1カ月~2週間前に、レシピエント、ドナー候補者共に、第三者である臨床心理士との面談を行っています。もちろんご本人の了解を得た上で、必要な情報は医師やRTCに共有されます。面談では、移植への意思確認や精神状態の確認、ドナー候補者に対しては、外部からの強制や心理的圧力がないか、利益供与がないかが確認されます。ドナー候補者が、いつでも提供を断れる環境を作ることはとても大切です。
また、内視鏡下で行われる腎採取術は日本泌尿器内視鏡学会技術認定医を中心に行っています。
腎提供後のドナーのフォローアップは、レシピエントの移植後検査入院(移植後1、3、6、12カ月)の際に一緒に来ていただいて診察をしており、その後は1年に1回のフォローアップを行っています。また、しばらくフォローアップ外来に来ていないドナーの方にはRTCから連絡をしたり、レシピエントに近況を確認したりして、フォローアップ外来受診を働きかけています。
移植を受けられる患者さんの最近の傾向はありますか。
佐々木先生:
全国の傾向と同じですが、生体腎移植では夫婦間移植や、透析を経ない先行的腎移植が増えており、先行的腎移植は当院の移植全体の4割を超えています。先行的腎移植は透析を経てからの腎移植に比べて、移植腎の生着率や患者さんの生存率が良いことが報告されており、手術におけるリスクも低いので、可能であれば透析を経ずに腎移植を行う方が良いと思われます。
その他、当院ではABO血液型不適合腎移植、抗ドナー抗体陽性腎移植などのリスクが高い腎移植も積極的に行っています。
現在、初診から腎移植手術まではどのくらいの期間が必要ですか。
佐々木先生:
患者さんの状態や施設の状況にもよりますが、大体3~4カ月です。
腎移植患者さんのフォローアップを中心とした腎泌尿器クリニックの開院
市立札幌病院において1998年から腎移植の普及に尽力され、600例以上の移植手術を行ってこられた原田浩先生が、2019年8月に腎移植患者さんのフォローアップを中心とした、はらだ腎泌尿器クリニックを開院されました。
クリニックを開院された目的を教えてください。
原田先生:
私は25年以上にわたり、腎移植の研究、市立札幌病院を中心とする腎移植の臨床に携わってきました。
日本における腎移植医療は、献腎ドナーが少ないため、生体腎ドナーからの腎提供に頼らざるをえない状況があり、末期腎不全患者さんが腎移植を受けられるとしても、ほとんどの場合は、一生に一度しか機会がありません。そのため、移植された腎臓をできるだけ長く維持することが、すべての移植患者さんの願いですし、我々医療者もそれをかなえるために最大限の努力をしなければなりません。移植腎の長期維持のためにも移植後のフォローアップは非常に重要です。しかし、移植後のフォローアップは腎移植専門医の診察や判断が必要な領域なので、移植後のフォローアップを中心に行うクリニックは全国でもまだ限られた地域にしかありません。
先ほどのお話にありましたように、市立札幌病院における腎移植数は800例を超えており、フォローアップが必要なレシピエントも年々増加しています。そのため、移植患者さんのフォローアップを中心に行う腎泌尿器クリニックを、市立札幌病院の目の前に開院しました。
移植患者さんが移植腎とより長く、充実した生活を送っていくことができるよう、市立札幌病院と連携しながら、しっかりとフォローアップをしていきたいと思っていますので、移植手術後、腎機能が安定したら、安心して受診していただければと思います。
(原田先生のドクターコラムはこちらから)
佐々木先生:
現在は、移植後、状態が落ち着いている患者さんは、原田先生のクリニックに通院するようになり、当院のフォローアップ外来には移植後間もない患者さんや他疾患を合併されている患者さんなどが通院されています。今後もはらだ腎泌尿器クリニックと協力しながら、それぞれの患者さんの状態に応じた適切なフォローアップを行っていきたいと思います。
移植を検討されている患者さんとそのご家族に向けて
佐々木先生:
腎移植医療は手術が終われば終了ということではなく、移植腎を長期に維持するためには、移植後のフォローアップが非常に大切です。特に免疫抑制薬は移植腎が機能している限り、一生飲み続けなければなりません。患者さんが免疫抑制薬を飲んでいる限り、我々移植医が主治医であり続ける、レシピエント、ドナー、そのご家族と長いお付き合いをしていく気持ちで日々の診療に取り組んでいますので、ぜひ安心して相談にお越しください。
田邉先生:
腎移植医療は手術手技や免疫抑制薬の発展により治療成績が向上しましたが、手術のトラブルや手術後の拒絶反応を100%予防できるわけではありません。当科を受診したら必ず移植が受けられて、手術後も上手くいくと思っている方も多いですが、手術前の精密検査の結果から、少しでも手術を安全に行えない可能性があると思われる方には、“誰にでもすぐに移植ができるわけではない”、ということをしっかりとお伝えさせていただいています。腎移植はほとんどの方の場合、一生に一度しかチャンスが無い手術なので、手術前にリスクを最小限にして、常にベストな状態で手術をしたいと思っています。
移植を希望される場合は、まずはお気軽にご相談いただき、しっかりと検査をした上で移植が可能だと判断された場合は、安心して当院の腎移植チームにお任せください。
移植件数
腎移植件数
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
---|---|---|---|---|---|
生体腎移植 | 38 | 38 | 34 | 28 | 32 |
献腎移植 | 4 | 2 | 0 | 1 | 1 |
合計 | 42 | 40 | 34 | 29 | 33 |
移植チーム紹介
腎臓移植外科
- 田邉 起
- 佐々木 元
- 平野 哲夫
- 田中 博(泌尿器科兼任)
腎臓内科
- 島本 真実子
病理診断科
- 辻 隆裕
レシピエント移植コーディネーター・看護師
- 佐藤 真澄
- 長谷川 香織
- 岸田 和恵
薬剤師
- 辻本 高志
臨床検査技師
- 矢野 智哉
- 大井 智貴
- 松山 輝
臨床工学技士
- 金野 敦
理学療法士
- 池田 光
連携医/技術指導
- 原田 浩(はらだ腎泌尿器クリニック院長)
受診について
生体腎移植希望の方
腎移植についてのご相談は「腎臓移植外科外来」で対応しています。
- お問い合わせ先
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腎臓移植外科
011-726-2211(代)
担当:腎臓移植外科外来
【受付時間】13:00~17:00
受診の方法
初診のご予約は、患者さんご自身からは、地域連携センター(011-726-7831)で承っております。
札幌市医師会会員の医療機関様からは地域医療室(011-707-7705)、その他の医療機関様からは地域連携センター(011-726-7831)で承っておりますので、主治医に紹介状を書いていただき、ご予約ください。
外来受診時の注意点
外来には、なるべくドナー候補の方と一緒にお越しください。
ドナー候補の方が遠方にお住まいの場合はご相談ください。
献腎移植希望の方
腎移植についてのご相談は「腎臓移植外科外来」で対応しています。
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担当:腎臓移植外科外来
【受付時間】13:00〜17:00
受診の方法
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