前回は「腎移植にかかる費用と医療保障制度」についてのお話をしました。今回は、もっとも大事な、“誰が生体腎移植ドナーになれるのか”についてお話ししたいと思います。当院を受診される方の中にも誤解をもたれている方が多いので、ここで触れたいと思います。

まず、日本移植学会の倫理指針でその範囲は定められており(図1)、6親等内の血族、配偶者と3親等内の姻族に限られております。

指針

親等に関しては(図2)をご覧になれば分かると思いますが、自分の親は1親等で、祖母、祖父は2親等です。またお子さんは1親等で、ご兄弟は2親等ということなります。図には記載されておりませんが、甥御さん、姪御さんは3親等で、いとこは4親等です。
この方々よりも遠い方でも、6親等、つまり、はとこ(再従兄弟)でもドナーになることはできます。ただ、現実的には親、兄弟がドナーとなられることが多く、叔母、祖父、いとこなどからの提供もたまにみられますが、少ない状況です。
また、近年非常に増加している夫婦間移植は、配偶者からの提供ということになります。そのご兄弟からの提供は姻族2親等からの提供、さらにその子からの提供は姻族3親等からの提供ということになりますが、そこまでは倫理上問題はありません。

親族

先日、「永年一緒に勤めた会社の部下からの提供は可能か」という質問をいただきました。米国などでは利害関係のない知人からの善意の提供が認められておりますが、日本においては基本的には認められておりません。他人からの提供は移植学会の倫理委員会での承認が必要ですが、これまでに10数例の審査がなされているようです。日本においてのハードルは高いと思っていただいた方が良いと思います。

そして、例え親族6親等内、姻族3親等内からの提供であっても、提供に強制、および金銭その他の金品の授受がないことが大原則であることはご理解下さい。主従関係にあり、「提供を断る」という選択肢を選ぶことが困難な場合も不可能です。ようするに、本当に本心から腎臓を提供したいという方がドナーになれるということです。

また、「永年同居(同棲)されていたパートナーからの提供は出来ないか」ということも非常に良く聞かれます。数年にもわたり事実婚であることが疑いのないことが裏付けられても、婚姻関係を結んでない相手は、法律上他人ですので、そのままでは提供が不可能だと言わざるを得ません。
婚姻関係を結ばれてからすぐに受診されるケースも、周囲からは移植のための婚姻と誤解されることもありますので、事実関係を良く確認させていただいてからドナーとなられることへの許可を出させていただくことが多いです。この点に関しては移植学会でも、婚姻後一定の期間を設ける、という案も議論されたことがありますが、現在のところ婚姻期間については一定の決まりはありません。

生体腎移植のための受診の際には、親族、姻族の関係の証明、さらにご本人の確認のために、戸籍抄本、謄本、顔写真のついた身分証明書(運転免許証、パスポート、障害者手帳など)、写真つき身分証明書が無い方は写真のない証明書を2通持参し、主治医が確認することが必要となっております。移植のために医療機関を受診しようとされている方は、ご用意されておいた方がよいでしょう。

さて、以上をクリアしても皆がドナーとなれる訳ではありません。健康であることが大前提です。これに関しては、次のコラムをご期待ください。