皆さん、お待たせしました。腎移植の準備(生体腎ドナー編)です。Coming Soonとお伝えしておりましたが、2シーズンが過ぎてしまいました。北海道ももう春の足音が聞こえてきています。さっそく本題に入りたいと思います。
生体腎ドナーは、レシピエントとは比べようもないくらいに、乗り越えなければならない高いハードルがあります。なぜならば、健康な人にメスを入れ、1つの腎臓を頂き、手術時は当然のこと、その後の身体の安全も保障してあげなければならないからです。誰でも生体腎ドナーになれるわけではありません。
というわけで、前回のガイドラインとは大きく異なり、厳格なガイドラインがあります。それに沿ってお話ししていきたいと思います。例えば、図1のような方が生体腎ドナーになれない理由は何でしょうか。勉強していきましょう。
生体腎移植のドナーガイドラインは日本移植学会のホームページからダウンロードが可能です。ダウンロードの上、今回のコラムを読んでいただけると良く理解できます。面倒くさい方はそのままでも結構です。また、増子記念病院 両角先生の日本移植学会誌の論文:日本の腎移植でのガイドラインも非常に分かり易いです。
1.レシピエントとの関係について:生体腎移植のドナーガイドラインII−1.
腎臓を提供できるのは、法定親族、つまり6親等以内の血族(はとこまでが該当します)あるいは配偶者および3親等以内の姻族に限定されています。腎移植に対する患者さんの誤解 その8でも触れましたが、事実婚状態のパートナーからの提供の場合、入籍されていない場合にはガイドライン上は対象となりません。よって婚姻関係にあることが大事です。もし入籍が不可能な場合には施設の倫理委員会、さらには移植学会倫理委員会でも審議が必要になります。
2.健康であることの証明:生体腎移植のドナーガイドラインIII-(1)(2).
基本的に安全に手術を行い、腎臓が1つ無くなってもその後の人生を末期腎不全に至ることなく、安全に過ごせることを保障するために、健康であることを確かめておかなくてはなりません。がんや脳梗塞、心筋梗塞などの有る無しはもちろん、結核などの持続感染症の有無が問題となります。当然安全に麻酔をかけることが可能で、腎採取術を行えることが最低限必要です。また、腎臓の提供にあたっては、提供することの意思決定が自分で行われ、強制・強要、金銭・物品の授受がないことが肝要です。この点を再確認ください。
3.個々のガイドライン:生体腎移植のドナーガイドラインIII-(3).
もう少しガイドラインを詳しく見ていきましょう。尚、献腎移植が信じられないほど少ないわが国において設けられている“マージナルドナー基準(生体腎移植のドナーガイドラインIII-(4))”も併せてご覧ください。
■A. 年齢は20歳以上 70歳以下が理想です。
マージナルドナー基準では、80歳以下で身体年齢を考慮するとあります。実際には我々の施設でも81歳での提供が成されています。その方は提供後2年が経過しますが、お体も腎臓もお元気です。
■B. 2.でも触れていますが、結核などの持続性感染症やHIV感染、クロイツフェルト・ヤコブ病がないこと、完治が確認されていない“がん”を持っていないことが必須です。
尚、“がん”は臓器あるいは進行度などで治癒の確認期間が異なるので、移植施設での判断が必要です。
■C. 血圧は、140/90mmHg未満であることが大事です。
つまり正常血圧にコントロールされている必要があります。マージナルドナー基準でも降圧薬が使用されていても問題ないが、腎臓の障害がないこと(尿中アルブミン排泄量が30mg/gCr未満)が必須です。この点、初診時に尿中アルブミンの排出がこれを超えている場合もありますが、厳格な血圧の治療(ダイエット、食塩制限、禁煙、降圧薬による治療)で改善することは大いに期待できます。
■D. 体重ですが、肥満は基本的に認められません。
具体的にはBMI{体重(kg)を身長(m)で2回割ったもの}が25kg/m2であることが理想です。
そうでなければ、ダイエットが必要です。なぜならば、肥満は糖尿病、脂質異常症のリスクファクターであり、さらには冠動脈疾患のリスクファクターでもあります。最も重要なことは、腎臓を提供した場合には、腎臓が1つになってしまうということです。大きな体のままより、小さな体にしておいた方が、残された1つの腎臓に無理をかけないということは、容易に理解できると思います。つまりは、腎提供後に腎障害が進むリスクを減らすことになります。さらに、太っていると手術が行いにくくなります。その結果、合併症(創離開、感染、出血、移植腎の機能不全)につながります。
■E. さて、腎機能はといいますとGFRは80mL/min/1.73m2を超えていなければなりません。
一般的に、腎臓を提供した直後は提供前の70%の腎機能となるので、80mL/min/1.73m2の方では提供後は56mL/min/1.73m2の腎機能で過ごすことになります。またGFRは年を取るにつれ減少していきます。高齢がゆえに最初から低腎機能の方もおります。よって、マージナルドナー基準ではGFR 70mL/min/1.73m2であれば許可されると記載がありますが、実際70 mL/min/1.73m2の場合は、提供後は50mL/min/1.73m2で過ごしていかなければなりません。CKDガイドラインではGFR 60mL/min/1.73m2であればグレード2となりますが、30~59ではグレード3と一段階悪いグレードにランクされます。この点、残りの人生を考え慎重に対応すべきです。
■F. タンパク尿についてです。タンパク尿は腎臓の障害を反映しております。1日のタンパク尿が150mg/日、あるいは換算式から150mg/gCr未満であること、またはアルブミン尿が30mg/gCr未満であることを絶対条件としています。
さらに、マージナルドナー基準でも、年齢、GFRや耐糖能障害は多少緩和されていても、このアルブミン尿の30mg/gCr未満という基準は厳守しなくてはなりません。つまり、当たり前の話ですが、腎臓に明らかな障害がある方はドナーになれません。
■G. 肥満、耐糖能異常(糖尿病あるいは糖尿病予備軍かどうかということです)、タンパク尿(微量アルブミン尿のレベルまで)なども非常に重要です。
先日のニュースですが、日本でも糖尿病患者さんの数が1,000万人を超えたとの報道がありました。さらに1,000万人の糖尿病予備軍まで入れると、実に日本の人口の1/7が耐糖能障害ということになります。今まで、通院はおろか健康診断もしたことがない方の中にも、移植施設を受診し、糖尿病であることが初めて分かる場合もあります。
ガイドラインでは、早朝空腹時血糖で126mg/dL以下かつHbA1c 6.2%以下が原則です。判断に迷う場合には、経口血糖負荷試験が行われます。当院でも積極的に行っています。
さて、マージナルドナー基準では、経口糖尿病治療薬が使用されていても、HbA1cが6.5%以下で良好に管理されていることを必須としています。インスリンを使用しなくてはならない場合には適応外とされています。もちろん、糖尿病性腎症の進展の指標である尿中アルブミンは30mg/gCr以下であることが絶対条件です。
■H. 器質的腎疾患がないことが必須です。
悪性腫瘍や尿路感染、ネフローゼ、嚢胞腎などの治療上の必要から摘出された腎臓は移植対象から除くとされています。マージナルドナー基準では臨床的に確認のできない腎疾患(隠れIgA腎症など)は器質的腎疾患に含めないとされています。当然、通常ドナーは腎生検を行うことはほとんどなく、これは仕方のないことかもしれません。
4.まとめ:長くなったのでまとめます。
表1も改めてご確認ください。
■a. 健康診断を受けましょう。
■b. もし、病気があれば治しておきましょう。
■c. 肥満があればダイエットしましょう。トレーニングジム通いも一法です。
■d. 事実婚の相手からの提供の場合は、婚姻関係となっていることが必要です。
■e. 前項でも述べましたが、家族に提供の意思を伝えて納得していただいておいてください。お話ししにくければ、移植医、コーディネーターがお手伝いします。
■f. 分かならないことがあれば、腎移植医、腎臓内科医、主治医に相談をしてみてください。
これらが全く解決されていないと、提供が許可されるまでに、移植施設受診から数カ月~時には数年を要することになります。思い立ったら吉日です。早めの健診、診察、治療、ダイエットをお願いします。
さて、ドナーとなることを決めた貴方、提供したらそれで終わりではありません。腎臓を頂いた方(レシピエント)のためにも、提供後も元気でいてもらうために、次のコラムでは、健康の留意の仕方につき述べたいと思います。
文献
1.生体腎移植のドナーガイドライン. 日本移植学会ホームページ.
2.両角國男. 日本の腎移植でのガイドライン. 移植49, 410-416, 2014.