前回は倫理面から "誰が生体腎移植ドナーになれるのか” について述べました。今回は、ドナーなれる医学的な条件について触れたいと思います。
まず、日本移植学会の腎移植ガイドライン(表1)をご覧下さい。2010年に少し変更がなされました。ガイドライン上は驚くほど制限がないように思われるかもしれませんが、実際はこれ以外にも医学的にクリアしなくてはならない点が多々あります。詳しく見て行きたいと思います。
1.をご覧下さい。基本的概念は、現在感染症や、悪性腫瘍を有していないことが条件です。つまり移植により細菌や、ウイルス、プリオンなどの病原体、がん細胞をレシピエントに伝播してしまう可能性がある方はドナーとなれないという事です。一般細菌やウイルスなら治療しておく必要性があります。
以前はこれにB型、C型肝炎のキャリアも含まれましたが、その項目は改定を機に外されました。明らかに活動性肝炎、あるいは肝硬変となっている方は提供することは不可能ですが、元気なキャリアの方で、レシピエントもキャリアで同一のウイルスの家族内感染であれば、施設の方針によっては提供が可能となる場合があるかもしれません。各施設でご相談いただきたいと思います。
悪性腫瘍は根治が確認されている場合は問題がありませんが、治療中の場合や、観察期間が短い場合には、根治の確認まで待機しなくてはなりません。また、提供が絶対に不可能とされる癌もあります。癌の悪性度、種類により観察期間も異なりますので、各施設にご相談いただきたいと思います。
次に2.をご覧下さい。まず年齢の方に目をやりますと、70歳以上は慎重に検討するということになっております。非常に多くの施設でこの70歳という年齢を一応の目安としていると思いますが、暦年令より体年齢の方が若い方がおられます。つまり、加齢による大きな疾患を免れ、あきらかな認知症にもなっておらず、提供後一つの腎臓となっても(単腎といいます)、おそらくその方の寿命を十分全うできるであろうと考えられる場合です。
日本人全体の高齢化、腎不全患者さんの高齢化、非常に少ない献腎移植数で、わが国の腎移植レシピエントの年齢は年々上昇しております。働き盛りの40、50代の腎不全の方のご両親が70歳を越えていることは当然理解ができ、唯一のドナーであることもあります。ドナーの年齢制限については各施設にご相談いただきたいと思います。
次に、“器質的腎疾患”の存在とありますが、これは、次の“腎機能が良好であること”の項目ともつながりますが、採血、尿検査や、CT検査などで、提供される方に腎疾患がある場合は当然提供ができません。普段元気に過ごされている方でも、精査してみると意外と腎臓の働きが良くない方がおられます。腎臓の働きはGFR(糸球体濾過率)で表されますが、これがあまり良くなく、2つの腎臓では良いものの、単腎となると、その方も腎機能障害者となってしまう場合は適応となりません。このGFRについては、移植を考える上であるいは、提供後、移植後の腎機能の目安となりますので、いずれ別の機会で述べたいと思います。
また、(表1)に触れられていない基準も沢山あります。言ってしまえば、このガイドラインは甘いと言わざるを得ません。各国では生体腎ドナーがクリアしなければならない厳しい項目が示されております。中でも各施設で用いられているアムステルダムフォーラムで謳われた基準があります。多数に渡る厳しい項目が記載されております。もちろん前述の感染症、腎機能、糖尿病、高血圧、肥満、尿路結石その他多くの基準があります。
ここでは、詳しく述べませんが、簡単にまとめられた東京女子医大の論文があります。「腎移植におけるマージナルドナーおよびハイリスクレシピエント」をご一読下さい。また、MediPressの森田先生のコラム 腎移植・血管外科研究会報告【2】「生体腎ドナーの諸問題~適応、安全性から社会制度まで~」もご参照下さい。
(表2)にアムステルダムフォーラム基準、東京女医大泌尿器科での基準に当科の基準の抜粋を記載してあります。ご参照下さい。
さて、以上をクリアするためには、正しい生活習慣が大事で、日常の健康診断も非常に大切です。移植施設に受診する前に、がん検診も含めた健康チェックを行っていただいておくと、移植施設を受診された場合に、適応の有無を迅速に判断していただけるはずです。ダイエットも重要です。詳しくは各移植施設に問い合わせをしてご確認下さい。
次回のコラムは少し脱線して、免疫抑制剤を使わない夢の試みについて触れたいと思います。