前回は、腎機能の指標である糸球体濾過率:GFR(ジー・エフ・アール)についてお話ししました。今回は生体腎ドナーの腎提供前後の腎機能の変化について取り上げたいと思います。

愛する人に腎提供をしてあげたいのはやまやまではあるが、提供をした後に、果たして自分の腎機能がどの程度残るのかが心配で、今一つ提供に踏み切れない、という方は多いと思います。この点については一般の教科書やホームページなどではあまり述べられていないかもしれません。もう少し、広い話からしましょう。

まず、生体腎ドナーの生命予後、末期腎不全に至る確率はどの位あるのかご存じですか? これについては、一般人との比較で有名な論文があります。※1 これによると、ドナーの生命予後および末期腎不全に至る確率は一般人と差が無いとされています。統計学的には差が無いのですが、ドナーはグラフの見た目は一般人よりもむしろ良好な生存率を示しています。(図1) もともと、厳重な精査の結果、ドナーになっても問題が無いと選ばれた方々ですから、ある程度当然かもしれません。でも、若しかしたらドナーと同様のかなり良好な健康状態を持つ一般人を選び出し比較したら、ドナーの方が劣るのかもしれませんが、その比較はありません。最近、まだ短期の比較ですが、ドナーと同様の背景をもつ集団を選び出し比較している報告が発表されました。※2 長期の成績についてはまだまだ先ですが、興味の持たれるところです。

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さて、提供後の腎機能についてはどうなると思いますか?前回のコラムの「GFR」で考えましょう。GFRは腎臓の中に尿の元が入っている血液が巡って、それをどのくらい糸球体で濾過することができるのかという指標です、ということをお話ししました。GFRは “学校でやったテストの点数”でした。
仮に、腎提供前のドナーのGFRが80点としましょう。両側の腎臓がほぼ同じGFRを持っているとしましょう。よって一つの腎臓を提供した瞬間に単腎となりますので、GFRは40点になります。ただ、年齢などを背景とした腎臓の状態にもよりますが、腎臓は普段から100%の働きをしている訳ではありません。つまり、少し余力があるということです。その為、40点になったGFRは少し改善します。退院時、すなわち1週間後でGFRは45点となり、その後さらに増加し単腎でも50点くらいとなります。
生体肝ドナーの肝機能が改善するという話を引き合いに出される方もおりますが、肝臓と異なり、腎臓は再生しませんので、それ以上の改善はありません。前回のコラムでもお話ししたように、単腎では一般的には50点くらいですが、40点くらいでも普通に生活はできます。残されたGFRを大事にする生活をして下さい。

また、ドナーの方から提供後の健診で、血清クレアチニン値の異常を指摘されましたという相談を受けます。これは、健診では腎臓が2個の方の正常値を基準にしておりますので、ある意味当然のことと思います。ただ、1つの腎臓でも、2つの腎臓の方の正常値をクリアしている場合もあります。

参考までに、当科で行われた120人の生体腎ドナーのGFRの変化を表にしました。前部長の平野先生がまとめられたものです。eGFR(イー・ジー・エフ・アール:推定GFR)で示しました。(図2)

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次回は移植患者さんの運動についてお話しさせていただきます。お楽しみに。

参考文献
※1. Ibrahim HN, Foley R, Tan L, et al. Long-term consequences of kidney donation. N Engl J Med 2009;360:459-69.
※2. Kasiske BL, Anderson-Haag T, Ibrahim HN, et al. A prospective controlled study of kidney donors: baseline and 6-month follow-up. AJKD 2013;62:577-586.