日本だけでなく、海外でも多くの症例に関わり、多くの研究にも参加している田邉教授。
日本を代表する移植医に「今後の腎移植と対策」についてインタビューしました。

Chapter1 最近の移植の傾向

最近の移植の傾向について、まずは海外と日本の成績について教えてください。

世界的に移植の成績はよくなってきていますが、特に日本は長期生着率が8割、9割とかなり高くなってきています。一方で、ヨーロッパやアメリカは、日本に比べると長期生着率は低く、10年生着率が5割から7割といったところです。
しかし、これは必ずしも海外の医師の技量が悪いことを意味しているわけではありません。すなわち、海外における医療制度、医療保険、文化的背景の違いなどが治療成績、特に長期の治療成績に大きく影響していると考えられます。

日本の長期生着率が高い理由は何でしょうか。

日本の移植の長期生着率が高い最大の理由は、手術そのものよりも術後の管理方法が海外と比べて丁寧であることからきています。日本の管理は細かく、抗体検査や腎生検等の検査を適宜実施し、検診による病気の早期発見、早期治療にも努めています。
それぞれの治療で成績が5%しか上がらなくても、3つ積み重ねれば成績は15%上がります。その積み重ねが大変重要なのです。また、われわれは、移植した腎臓がうまく働かなくなる原因を把握しておりますので、発症頻度の高いものから対応していき、さらに成績を上げるようにしています。

臓器移植法改正により、腎移植は増えましたか?

昨年の改正臓器移植法により、今まで少なかった脳死による肝・膵・心移植は明らかに増加しましたが、腎臓についてはほとんど増加していません。献腎移植そのものがあまり増えていませんし、人口比から見ても相変わらず少ない状況です。献腎移植については、様々な臓器提供のキャンペーンを行っても、国民の理解が進まない限り今後もそれほど増えないと思います。

症例数という視点からみた現状をどうお考えでしょうか?

田邉先生

アメリカでは、年間約7,000件の生体腎移植(献腎とあわせると約16,000件)があります。ヨーロッパでは年間5,000~6,000件程度です。一方、日本では、透析患者が300,000人近くいるにもかかわらず腎移植全体で年間約1,400件しか行われていません。海外の移植件数と比較した場合、人口で調整しても日本の移植は明らかに少なく、人口比率から見ると2,000~3,000件あってもいいはずです。
そういった現状から、ひとつの目標として、これから約5年で今の倍の3,000件にできないかと考えています。
ただ、献腎が少ないという現状では、件数増加のために生体腎移植を増やす必要があります。