日本赤十字社発祥の地、熊本において、県内の医療の中核を担う熊本赤十字病院。こちらの施設では、1988年から腎移植診療が開始され、近年では年間20~30例の腎移植手術が行われています。移植チームは、総合内科、外科、腎臓内科、泌尿器科、産婦人科、麻酔科など、複数の診療科にまたがる医師とレシピエント移植コーディネーター(RTC)、そして薬剤師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師、臨床工学技士、事務職員で構成され、それぞれが密に連携を取りながら診療にあたり、よりよい移植医療を追求しています。
熊本赤十字病院における腎移植医療の歴史とその特徴、今後の展開について、移植チームの先生方にお聞きしました。
(左から)総合内科部長:上木原宗一先生/腎臓内科:豊田麻理子先生/総合内科:川端知晶先生/外科:山永成美先生/外科:日高悠嗣先生/レシピエント移植コーディネーター(RTC):坂本律子看護師
Chapter1 腎移植チームが出来るまで
まず、熊本赤十字病院における腎移植医療の歴史について教えてください。
上木原先生(総合内科 部長):
当院における腎移植医療は1988年に始まりました。当時外科の井清司先生と私の二人三脚でスタートし、今日に至るまで、内科と外科を中心に、さまざまな診療科の医師や医療スタッフが協力しながら進めてきました。
移植医療をスタートするには院内の体制整備が必要でしたので、腎移植の技術とそれをサポートするシステムを確立するため、国内外の移植施設で、井先生や私も含めた医療スタッフが移植医療を学び、準備を進めました。そして1988年に第1例目の生体腎移植手術を行いました。
現在は、年間どのくらいの腎移植手術を行っているのですか。
上木原先生:
2000年以前は、年間5~10例程度でしたが、2000年以降、新しい免疫抑制薬の登場による腎移植成績の向上とともに移植希望者が増え、近年では年間20~30例の腎移植手術を行っています。
20~30例の移植を行うための院内体制の整備はどのように進めていったのでしょうか。
上木原先生:
さまざまな診療科の協力を得て、現在の体制が出来上がりました。腎移植を始めた頃は、鏡視下のドナー腎摘出術ができる医師が限られていましたので、産婦人科の医師に腎摘出を行ってもらっていたこともあります。
現在はどのような体制で移植手術を行っていますか。
日高先生(外科):
現在は、外科、泌尿器科、総合鏡視下手術センターがチームを組んで行っています。レシピエントの手術は外科が担当し、ドナーの腎摘出術は泌尿器科のチームが担当しています。当院は2009年に「総合鏡視下手術センター」が開設され、鏡視下手術を専門とする内視鏡手術技術認定医が数名在籍しています。
現在の移植チームの先生方はどのようなきっかけで腎移植医療に携わることになったのですか。
豊田先生(腎臓内科):
私は以前から上木原先生が移植外来を行う様子を見ておりましたので、内科医が腎移植診療に携わることは自然なことだと思っていました。
山永先生(外科):
私の場合は、2年間の初期研修が終了するときに、上木原先生に「移植をやってみないか」と言われたのがきっかけです。上木原先生のもとに、さまざまな診療科の医師や医療スタッフが集まり、現在の移植チームが出来上がりました。
上木原先生が率いる総合内科は院内においてどのような役割を担っているのでしょうか。
上木原先生:
総合内科では、患者さんの全体像を把握して適切な治療計画を立て、複雑な病態の把握と管理を行えるスペシャリストを育てています。
我々が内科医としての職務を全うすることで、外科医は手術に集中することができ、スキルアップをし続けることができると考えています。