私も満点、倅(せがれ)も満点

臓器提供してよかったですか。

息子さんと一緒に

千保さん
満点です。私自身も、マイナス面や不都合を何も感じていません。
私はドナーになる前、「腎提供後は腎機能が提供前の70~75%になるけれど、アマチュアの野球くらいは問題なくできるよ」ということは聞いていました。
それと、たまたまなのですが、近所のお医者さんが生まれた時から腎臓が1つしかなかったそうなのです。そのお医者さんはラグビーか何かをやっていらっしゃるのですが、「腎臓が1つでも全然問題ありませんからね」と話されていました。そういう話を聞いていたというのも、気楽にドナーになることができた理由の1つだったかもしれませんね。
皆さんがそうなのかどうかは分かりませんが、少なくとも腎提供できるくらい健康な人が腎臓を1つ提供して、それで健康に大きな障害が出るというようなことは、私にとっては考えられません。
私も61歳で腎提供して、今が71歳、今年誕生日が来ると72歳です。歳をとってから腎提供したうちに入るかもしれませんけれど、10年たっても10年前と比べて全然変わらないですね。

臓器提供を検討している方から相談されたら、提供を勧めますか。

千保さん
私の体験談をお話しすることはできますが、体にメスを入れることに恐怖を感じる人もいらっしゃいますので、相手の受け止め方を見極めながら、できるだけ勧めています。
私の場合は移植時に、栃木の新聞などでかなり大きく報道されており、全国紙でも栃木版に載ったので、県内で移植に関心のある人は覚えているのですね。でもそこで私が、「移植はいいですよ。ぜひやってあげなさい。」と言ったら、手術で体に傷をつけることそのものが怖いという人や、宗教上の理由でできない人などに、精神的な圧迫を与えてしまい、その人を不幸にしてしまうと思うのです。
ですので、私は、「本当にやって素晴らしかったですよ。ぜひ多くの人に勧めたい。」というようなことは言いません。親子間の移植についても、負担に思う親もいると思いますので、言葉には気を付けています。
ただ、「千保さん自身はどうだったのですか?」と直接聞かれれば、「私はやってよかったですよ」と誰にでも言っています。不安を持っている人がいたら、「移植後も生活は全然変わらない。暴飲暴食も相変わらず特技ですよ。駆け足もできるし、何でもできますよ。」とお話ししています。

いろいろなお考えをお持ちの方がいらっしゃるとは思うのですが、千保さんのお話に背中を押され、移植をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

千保さん
そういう方もいらっしゃるかもしれません。現役の市長だったころ、宇都宮の駅前で、息子と一緒にティッシュを配りながら移植の啓発活動をしていると、大きいマスクした女性が来て、「千保さんですよね、私、千保さんに感謝しているのです」と話しかけてこられました。その女性に、「お会いしたことがありましたか?」と尋ねると、「いいえ、初めてです」とおっしゃるので、詳しくお話を聞いたのです。するとその女性は、「私はもう20年も透析をしていましたが、父が千保さんの記事を見て、『じゃあ、俺もお前にやる』と言って、今回移植してくれたのです」とお話しされました。
「そうですか。それはよかったですね。」と言ってから、もう10年が経ったのですが、ついこの間、大田原のデパートを歩いていたら、マスクをした女性から、「どうも、こんにちは」と声をかけられたのです。その時の女性だったのですね。10年前にお会いした時にもマスクをしていて、今回もマスクをしていたので、見えているのは目の部分だけなのですけれど、雰囲気で分かりましてね。記憶って不思議なものだなと思いました。


メッセージ

最後に、現在移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージを頂けますか。

千保さんと息子さん

千保さん
私は臓器提供したことに対して、マイナス面というものが本当に何も思いつきません。「移植して満点」「私も満点、倅も満点」だと思います。それでもやはり、腎臓が1つであるということを全く気にしていないのではなく、定期的に健康診査を受けるよう心がけるなど、少しは意識をしています。したがって、何かを我慢しているなどというようなことは、全くありません。移植をしてからも生活は全く変えていません。どこにも支障がありません。
個人差はあるのかもしれませんが、私の移植前と移植後の状況をよく見ていただくことによって、決断のお手伝いができればと思います。