2回目の移植手術を終えて
手術当日はどのような気持ちでしたか。
ひとみさん:
それまでは何事もポジティブに考えて移植手術の日を迎えたわけですが、手術台に上った時、私もやっぱり少し怖くなりました。その時に、看護師の女性が、ずっと私の手を握ってくださっていたのです。その方は、手術の前に、一度お話をしに来てくださった看護師さんで、とてもにこやかできれいな方だったのですが、その方が本当に天使に見えました。ずっと手を握って背中をさすってくださって、本当にうれしかったですね。
そして無事、移植手術を終えられたわけですが、手術の痛みはどのくらいの間続きましたか。
ひとみさん:
手術から戻った時は、麻酔が効いていたので痛くはありませんでした。でも、麻酔が切れたら本当に痛かったです。痛み止めも6時間空けないと、絶対に次の薬を入れてくれないのです。痛み止めが切れている時に咳払いをするとすごく響いて、それが本当に痛くて、ベッドにグッとしがみついて、「早く時間がたたないかな」と思っていました。
ひどい痛みは術後2~3日続き、そのたびに痛み止めを飲みました。その後、2~3週間くらい痛みが続き、さらに2カ月ぐ
らい先まで時々痛みがあり、そのたびに薬を飲みました。自分では、我慢強い性格だと思っていましたが、痛みには弱い
みたいです(苦笑)。
ご主人と会ったのは、術後何日目でしたか。
ひとみさん:
術後2日目ぐらいだったと思います。私の方が痛がっていて、主人はすごく元気そうでした(笑)。皆が、「ご主人、すごい元気だよね」と言っていて、やはりそれはとてもうれしかったですね。
ただ1つ主人が大変だったのは、膀胱の許容量が小さくなってしまっていたので、頻尿になり、15分に1回くらいの頻度でトイレに行くのですが、そのせいで眠れず、夢遊病者みたいにふらふらになってしまったことです。心配なので、常に時計を見て、「みんなで起こさなきゃ」みたいな感じでした。
入院期間はどのくらいでしたか。
ひとみさん:
2週間くらいだったと思います。家から病院が遠かったこともあり、大事をとって余分に入院していました。
退院後はしばらくはゆっくりされたのですか。
ひとみさん:
娘も義母も居ましたから、家事などを手伝ってもらいました。退院後徐々に復帰して、3週間ぐらいで日常生活に戻りました。
臓器提供後からこれまで、体調面でつらかったことや、ドナー検診以外の通院などはありましたか。
ひとみさん:
特にありません。
臓器提供後、特に気を付けてきたことがあれば、教えてください。
ひとみさん:
水分を取ることです。「1日に2リットルは飲まないといけない」と言われていたのですが、実は私、水分を取るのが苦手なのです。水を飲むという習慣がないのですね。ですので、お茶などをまめに飲むようにしています。
未来に希望を持って
臓器提供後、最もうれしかったことはどのようなことでしたか。
ひとみさん:
主人が透析から解放され、一日おきの病院通いがなくなり、普通の生活ができるようになったことです。主人は夜間透析だったので、職場を16時ごろに出て、4時間の透析を終えると、22時近くになり、自宅に戻るのは23時ごろになっていました。それから夕食をとり、寝るのは深夜0時を過ぎることがよくありました。翌日早いときは、5時30分に起き、6時15分には家を出ていました。そのような生活から主人を解放してあげられたことが本当にうれしいです。
また、貧血が改善され顔色が良くなり、むくみが取れて、パンパンに膨れていた脚が普通に戻ってきたこと、何より健康を取り戻してくれたことがうれしいですね。
加えて、気持ちの変化も大きかったです。移植する前は、主人はかなり精神的に落ち込んでいましたので、「移植を受けよう」と私が説得した時には、「夢を持たなければ駄目よ」「これから還暦も迎えなきゃいけないし、息子や娘の結婚式にも出なきゃいけないし、孫の顔も見なきゃいけないし、2人で一緒に旅行にも行かなきゃいけないし、家族みんなでいろいろなところに行かなきゃいけないし・・・」というような感じで元気づけていました。仕事に関しても、中途退職を考えていましたので、最後まで全うして、きちんと定年退職をさせてあげたかったというのもありました。
そういうこともありましたので、今こうやって未来に希望が持てるということは、とても幸せです。主人は2年後に退職なのですが、「なんとか頑張れそう」という感じです。ひょっとしたら継続して非常勤で勤務できるかもしれないという望みも出てきましたので、「今から、退職してからのことを考えながら生活しようね」と言っています。
ご主人との関係は、臓器提供前後で何か変わりましたか。
ひとみさん:
今まで以上に、私の体を気遣ってくれるようになりました。主人の体調の良いときには、食事の準備や後片付けをよく手伝ってくれますね。
また、定年を間近にした主人と、旅行の話をするようになりました。透析からは解放されましたが、ストマ(人口肛門)のため、入浴などの制限が残っていて、実現することはなかなか難しいのですけれど。それと今、「ゆず」という名前のトイプードルを飼っているのですが、散歩に行くのが楽しみですね。
臓器提供後、新たに始めたことや、打ち込んでいることはありますか。
ひとみさん:
カウンセリングの勉強のためのサークルに参加しています。また、子育て支援の手伝いもしています。昔から、ボランティア活動など、「何かしたいな」という思いはずっとあったので、カウンセリングに興味を持ち始めた時、聴講に行ったのです。その後、市が「学校サポーター」という、子どもたちの話を聞くボランティアを募集していたので、半年間、中学校へ行きました。そこでカウンセラーの方に出会い、「カウンセリング研修会」に誘っていただきました。そこに自分の求めていた世界があるなと感じました。子育て支援もそのつながりで、お手伝いを始めたところです。
メッセージ
臓器提供してよかったですか。
ひとみさん:
本当によかったと思っています。家族みんなの気持ちが明るくなり、家族団らんが楽しい時間になりました。
主人は高校1年の時にネフローゼ症候群になり、人生の4分の3を病気と闘って、本当に痛く苦しい思いをして、いろいろな岐路に立たされてきました。
私は結婚して33年になるのですが、その間一緒に生活をしてきて、主人のそんな姿をずっと見ていますから、「なんとか
人生の後半、痛みのない生活をさせてあげたい」という思いが強かったのです。
本当に一生懸命、大変な中にも家族をとても大切にしてくれましたから、主人には心から感謝しています。そういう意味
で、移植により主人を楽にしてあげることができ、また、家族みんなが笑えるようになったということは、本当に喜びで
すね。
臓器提供を検討している友人から相談されたら、提供を勧めますか。
ひとみさん:
皆さん、それぞれ事情があるので、一方的な勧め方はしません。ただ、私たちの話をお聞きになりたい方がいらっしゃれば、喜んで私たちの経験をお話しします。
現在、移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージをお願いします。
ひとみさん:
私たちが手術を受けたような移植専門の病院には、移植医療に携わる素晴らしいスタッフの方々がいらっしゃいます。腎不全の状態にある方は、心配や不安を先生方、コーディネーター、看護師の方、レシピエントの会、ドナーの会の方に相談されれば、必ず良い道が開けると思います。現在の移植医療の技術と病院のスタッフを信じて、ご自身にとって最良の選択をしてほしいと思います。