より仲良くなって
臓器提供後、最もうれしかったことはどのようなことでしたか。
村山さん:
心配性の母が、兄の病気のことを忘れるようになり、よく出かけるようになったことです。また、家族がより仲良くなったこともうれしかったですね。
移植後2年目くらいの時に、母に、「もうすぐ2年だね」と私が言ったら、「2年?」と聞き返され、「いや、移植後2年だよね」と言ったら、「あ、そうなんだね、お兄ちゃんはあなたに感謝しないとね」なんて、普通に言っていました。母も忘れてしまうぐらいに、兄が普通に暮らしていたのです。普通に食べて飲んで、そういうことがとてもうれしいですよね。
お母様は、よく出かけるようにもなったのですね。
村山さん:
はい。友達や伯母たちと旅行へ行ったりするようになりました。以前はあまり出かけることはなかったですね。たぶん、兄の病気のこともあり、不安だったのだと思います。母は、不安があると話さなくなるのです。兄が心肥大になった時も、私は教えてもらえず、治ってから知りました。「何で教えてくれなかったの?」と聞くと、母は、「口に出すと死ぬと思ったから」と言ったので、「えぇ! ? 」と本当に驚きましたね(笑)。
ご家族皆さんで旅行などにも行かれましたか。
家族みんなで見た富士山
村山さん:
両親と、兄の家族、私の家族の9人で、静岡県にある「休暇村富士」に行きました。食事はバイキングだったのですが、みんなで本当にたくさん食べましたね(笑)。
臓器提供前後でお兄様との関係は何か変わりましたか。
村山さん:
仲良しになりました。移植前は、お正月やお盆にしか会わず、話すこともあまりありませんでしたが、移植後はよく話をするようになりました。SNS※などでも会話をしますね。兄からは、近況報告のような感じで、「今日病院へ行ってきたけれど、数値もよかったよ」というような内容がSNSにアップされているときがあります。たぶん、私に気を使ってくれているのだと思います。ドナーの会で、レシピエントとドナーが連絡を取り合わなくなって、ドナーがすごく不安になったり、不満に思うことがあるというお話を聞いたことがあるのですが、一緒に会に参加していた兄はそれを覚えているのだと思います。
※ ソーシャル・ネットワーキング・サービス(mixi、Facebook、Twitter など)
ドナーの会に参加して、どのようなことをされているのですか。
村山さん:
ドナーの会には本当にいろいろな方が来られていて、ドナーになることを思い悩んでいる方もいたりするので、そういう方に対して、「私のようなこういう人もいますよ」と、実例を見せるようにしています。兄は、私が誘うと必ずスケジュール空けて一緒に行ってくれます。「ドナーの会は一緒に参加すると決めている」とSNSでつぶやいていたこともあります(笑)。
臓器提供後、新たに始めたことや、打ち込んでいることはありますか。
村山さん:
記録と記憶を残すためと、少しでもお役に立てばと思い、「腎ドナー体験」ブログを立ち上げました。
その時の気持ちなどは、時がたつと忘れてしまうということは経験上分かっていたので、どうせ残すのだったらどう残そうかと考え、「ブログを立ち上げちゃえばいいかな」という感じで始めたのです。
今は、どのようなお仕事をされているのですか。
村山さん:
銀行の窓口で働いています。最近、振り込め詐欺を阻止して、感謝状をもらいました(笑)。窓口で高齢の女性が、「200万円引き出したい」と言うので、ちょっと様子がおかしいなと思って、「何に使うの?」と聞いたら、「ちょっとね」と言葉を濁したので、「必要なご資金だと分かれば引き出しをお止めすることはないから教えてください」と聞いたのです。そうしたら、「知らない人に貸す」と言うので、やっぱりおかしいなと思って上司と更につっこんで聞いていったら、やはり振り込め詐欺でした。お客様の大切な預金を守れて本当によかったです。
振り込め詐欺を防止して感謝状をいただきました
メッセージ
臓器提供してよかったですか。
村山さん:
よかったです。何をするにも、みんながちょっと楽しくなったというか、明るくなった感じがするのがいいですね。
臓器提供を検討している友人から相談されたら、提供を勧めますか。
村山さん:
その方の状況にもよりますが、勧めると思います。実際に相談されることも結構あります。ただ、ドナーの会でお会いする方の中には、レシピエントとのコミュニケーション不足で、感謝されているのかが分からず、臓器提供したことを後悔されている方もいます。ドナーは見返りを期待してはいけないこと、「もしかしたら、『ありがとう』の言葉さえもいただけないかもしれないという覚悟が必要です」と言うときもあります。
もちろん大抵の場合、レシピエントはドナーに対して言葉にできないくらい感謝していると思います。
現在、移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージをお願いします。
笑顔の絶えない家族です
村山さん:
私はブログでメッセージをくれた方々に、「焦らず皆さんでよく話し合ってください。そして自分の気持ちに正直になってください。」と書くことがあります。それは、家族みんなが一丸となって、「この移植を成功させよう」としないと、誰かが後悔の念を抱くことがあるからです。
私の母は、自分がドナーになれなかったことで、ひどく落ち込みました。子どもを2人とも傷物にしてしまうのは自分のせいだと責めていたのです。私は手術の際、母に子どもたちの世話をお願いし、ドナーになることと同じくらい大切な役割であることを伝えました。父は送り迎え、兄の奥さんは、術後動けない私の洗濯物をせっせと洗ってくれました。主人はいざというとき、私たちの仲を仲裁し、収めてくれました。子どもたちは我慢して私の帰りを待っていてくれました。
術後、家族みんなが自分のできる役割を果たし、満足していたと思います。
私はドナーになったことを一度も後悔していません。それは、今も兄と私が元気に過ごしているからではなく、10年たった今でも、家族全員が同じ方向を見て、笑顔で過ごしているからです。これから移植を控えている、または検討しているドナーやレシピエント、そして家族の皆さんが、自分の役割に納得し、その役割を大切に果たしていくことで、移植後、笑顔で未来を過ごせるよう「家族会議」を何度もしていただきたいと思います。