今回からシリーズで、先月後半に開催された腎移植・血管外科研究会での主な演題について、主催者である北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学分野(代表世話人:野々村克也)の森田研先生に、研究会の事務局の立場で、講演内容を紹介・ご説明頂きます。(文責:森田研先生)
6月24日(金)プログラム 教育セミナー(1)
腎移植におけるHLA抗体検査の重要性 演者:名古屋大学外科 小林孝彰先生
人間の全ての細胞表面には、他人と自己を区別するための組織適合性抗原(HLA)という「刻印」がされています。これは指紋と同じように、世界には二つと無い独自のもので、一卵性双生児の場合以外は他人とは必ず違っており、移植後の拒絶反応のきっかけになります。
最近の免疫抑制薬の発達で、HLAの違いから来る拒絶反応は抑えることができるようになりましたが、最初からこのHLAの違いに対する抗体が血液中に形成されていると、移植直後から腎臓に血栓症を起こす原因になり、抗体を予め調べておくことが必須になっています。移植前にこれを調べる方法が発達してきたので、事前に抗体があるかどうかを詳細に検査できるようになりました。一部の詳しい方法は健康保険適用外ですので、費用がかかる場合があります。
では、どのような場合にこの「抗HLA抗体」が出来てしまうかというと、前に移植をしたことや、その他に、移植と同様に抗体が作られる原因になるものとして、輸血や妊娠があります。
従って、移植、輸血、妊娠、などの経験がある方が移植を受ける場合は、まずこの抗HLA抗体を詳しく調べておくことが、移植後に問題を起こさないためには必須となります。亡くなった方から腎臓を提供してもらって移植を行う場合も、リンパ球交差試験、という方法でこの抗体が無いことを必ず確認してから行います。
また、移植後に、たまたまこのような抗体が作られてしまって、移植した腎臓の機能が害されることがあり、拒絶反応や慢性的な腎機能の悪化、蛋白尿などの原因になります。
少しずつ移植腎がダメになってくる「慢性拒絶反応」の半分以上はこれが原因ではないかと言われています。
講演者の小林孝彰先生らは、これら抗体検査の方法の整備やガイドライン作りを行っており、検査費用の保険適用や献腎移植の際の安全な検査体制を整えようとしています。
抗体検査の実際は、腎移植のドナーと受ける患者さんのHLAの組み合わせによって必要な検査内容が変わる場合があり、主治医とよく相談して検査を受けることが必要です。
腎移植を受けようとする場合は、この抗体検査が最初の検査として行われることが多く、移植、輸血、妊娠の経験がある患者さんは気をつける必要があります。
詳細は、日本組織適合性学会/認定HLA検査技術者講習会テキストがHPから自由にダウンロード出来ます。HLA抗体の成り立ちや移植に関係する検査まで解説されています。
解説・文責:北海道大学大学院医学研究科 森田 研 先生