第52回 日本臨床腎移植学会報告【2】
特別講演1 「腎臓病の克服を目指してー移植医療における腎臓内科医の役割ー」
川崎医科大学 腎臓・高血圧内科 柏原 直樹 先生
■高齢社会における慢性腎臓病治療
腎不全の治療法である血液透析・腹膜透析・腎移植のいずれにおいても、我が国は世界の中でトップレベルの医療水準で治療が受けられる環境にあります。治療を受ける側にとって、最も大事な点は、各治療法(腎代替療法)の優れた点と不足点をよく理解・納得して選択することである、と柏原先生は述べています。そのためには医療従事者が各治療法の特徴をきちんと説明し、患者さん自身が、家庭環境などの状況に応じて能動的に正しい選択ができるよう、支援することが重要です。
日本が高齢社会・長寿社会へ移行する中、長生きすることで多くの併存疾患(腎不全以外の病気)をかかえる慢性腎臓病の患者さんが増加してきます。腎不全の原因として糖尿病や高血圧症の割合が高くなり、それらに伴い心血管系疾患が増加してきます。今までのような糖尿病対策だけでは追いつかないスピードで、腎不全に陥る方々が増えてきています。そうなると、自治体における透析医療費の支出割合が高くなるため、今後、経済的にもますます腎移植を推進していく必要性が高くなります。
慢性腎臓病の予防とともに、疾患全体の治療における生活の質向上のために、かかりつけ医への受診の段階から、早期の予防医学的な対策を進めることが重要です。移植によってレシピエントと同様、単腎者となる生体腎ドナーの管理も、同じ基準で行われるべきであることを、実際のデータを開示しながら説明されていました。
■地域連携による慢性腎臓病対策
現在、腎臓学会を中心に、全国で慢性腎臓病予防の地域連携による医療展開が推進されています。具体的には、各地域での保健師・健康福祉行政による健診・予防の推進、早期からの看護師・栄養士・薬剤師・医師による共同指導などです。
日本透析医学会の統計データ分析では、男女ともに透析患者さんの年齢別の総数が65歳未満で減少していることや、毎年の新規透析開始数の年齢別の推移が、80歳以上の男性を除いて減少していることなどが判明しており、上記の慢性腎臓病予防の対策効果が出ている可能性があります。
今後、併存疾患を多く抱えた方や超高齢の方が、腎代替療法を検討する機会が増えると考えられます。したがって、多職種による関わりを基にした共有的治療方針決定とともに、行政・産業・医学会が協調し、日本医療研究開発機構のような組織を活用して、明日の医療を考えていく必要があります。
最近、日本発の論文、創薬、研究や留学の数がやや鈍ってきているという調査統計もあるようですが、腎臓内科がより積極的に移植医療に関わっていくことで、多くの併存疾患への対応を行いつつ、慢性腎臓病の治療の発展と、患者さんの生活の質を上げる医療を達成できるよう努力を続けていくことが、今後の目標だとして定められていました。