2014年9月10日~12日に東京(新宿)にて開催された、第50回日本移植学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 講師 森田研先生にご紹介・ご解説いただきます。
第2回目の今回は、脳死下臓器提供増加のための方策についてのシンポジウムをご紹介いただきました。


2014年9月10日から3日間、新宿にて、第50回日本移植学会総会が開催されました。その中で、興味深い講演や企画を選びレポートしました。なお、私の理解不足で発表者の意図した内容と多少異なる解釈や、表現を変えたことによる微妙な違いがあるかもしれません。このレポート内容についての責任は全て私にありますのでご了解ください。

「脳死下臓器提供数増加のための方策」臓器横断的シンポジウム1(2014年9月11日)
座長 星長清隆先生(藤田保健衛生大学)、行岡哲男先生(東京医科大学)

第50回日本移植学会初日の午後に、今回の移植学会の主要企画である臓器横断的シンポジウム(1)「脳死下臓器提供数増加のための方策」が行われました。学会中には、この他にも多種移植臓器にまたがった問題についてのシンポジウムが合計16テーマ企画されており、心臓、肺、肝臓、腎臓など各臓器の専門家が同じ会場で論議を行いました。
座長は星長清隆先生(藤田保健衛生大学)、行岡哲男先生(東京医科大学)で、行政、臓器移植ネットワーク、提供側医療関係者、メディアの立場から臓器提供数の現状と課題について論議が行われました。

まず厚生労働省の阿萬哲也氏より、臓器提供の現状についての説明がありました。現在脳死下臓器提供数は累計で270例を越えておりますが、増加傾向はありません。改正臓器移植法の施行により、ご本人の臓器提供意思が不明な場合も、ご家族の承諾があれば提供が可能になり、それにより15歳未満の方からの脳死下での提供も可能になったことについて、世論調査では7割以上の人が認知しており、43%が臓器を提供したいと答えている反面、ここ数年の臓器提供数は増加せず、逆に減少しています。
減少した原因を調べるため、臓器移植ネットワークの朝居朋子コーディネーターが、提供を断念したケースを中心に調査したところ、ドナーの疾患などの統計では、外因死(外傷など)が増加し、内因子(脳卒中や心筋梗塞など)が減少していました。、また、ネットワークに連絡があったもののコーディネーター面談に至らなかったケースが増加し、検討の結果、ご家族が提供を辞退されるケースが増えているという結果でした。
これらを踏まえ、ネットワークでは提供施設の医療チームを支援する事業を開始し、臓器提供の可能性が高い病院を啓発し、集中的に体制整備を行う方針を打ち出しています。

一方、提供側の立場から、日本医科大学救命救急科の横田裕行先生は、改正臓器移植法施行後の脳死下臓器提供時の所要時間を比較し、法改正前は46時間だったものが、改正後は63時間と、平均所要時間が延長していることを指摘しました。
この背景には、毎回の事例検証作業と、それに伴う詳細な記録、書類の整備、マニュアルの確認作業などの手順が多く、1つ1つ確認してクリアしていく作業の負担が多くなっている状況で、日常の救急業務とは大きく異なる作業になっているということでした。これらをスムーズに確実に行うためのシミュレーションを行って日頃から慣れておくことや、提供時の手順の見直しの一例として、現時点では移植医療施設への第一報が2回目の法的脳死判定後になされるのを、第1回目の判定後に可能とするべき、などの要望を行っていることが紹介されました。

提供側の脳神経外科の立場から、提供数が増加しない原因について、聖マリアンナ医科大学の小野元先生が施設内の報告例を集計して検討しました。ドナー本人の意思確認が出来ていない状況では、家族からの申し出があっても提供に至らないケースが多いことや、救急医療を担当する側としては家族と初対面のことが多く、提供の話を切り出しにくい状況、救急の現場では臓器提供を増やすための医療をしているわけではないことなどが原因として考えられました。
しかし、前述の世論調査にもあるように、改正臓器移植法施行後の国民の意識変化は事実としてあるので、このような提供に至らない事例の詳細な検討により、医療施設側、ドナー家族対応にどのような改善点があるかを検討することが必要と述べておられます。

同志社大学の瓜生原葉子氏の分析によると、ドナー家族の提供希望の背景には、ドナー本人の意思を尊重したいという気持ちがあり、ドナーが事前に書面により提供意思を示していた場合には、家族が「提供意思を尊重したい」と答えている割合が87%と高くなることを踏まえ、家族同意のみで提供できるように法改正がなされた現時点でも、意思表示カードの普及啓発は重要であると述べました。
一般人を対象とした意思表示に必要な心理的要因を調べる調査により、臓器提供の増加には臓器移植自体の知識の増加に加えて、「向社会行動」※1「利他行動」※2の熟成が必要であり、そのためには家庭や学校、社会で共感性を育むことが重要であると結論していました。
※1.他人を助けることや、他人に対して積極的な態度を示す行動のこと。※2.自らの不利益をかえりみず他の個体に利益をもたらす行動。

最後に、産經新聞者の木村良一氏より、「オプティングアウト」システムの導入についての提案がありました。日本も、ヨーロッパに代表される国々と同様な「オプティングアウト」システム(個々が事前に公に臓器提供を拒否する届け出をしていない限り、提供の意思があると見なされるシステム)を導入するべきであると主張されています。そうすることで、臓器移植医療に国民が関心を持たざるを得ない状況を作ることが出来ます。木村氏は、今回の移植学会で特別講演を行った衆議院議員の河野太郎氏(父の河野洋平氏に肝臓を提供したドナー)が、当初は臓器移植法に反対していたものの、実際に生体肝移植をドナーとして経験し、生体移植の問題点を認識したことが、臓器移植法改正案の原動力となった、という話を引用されていました。

解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生