2016年3月23~25日に米子市で行われました、第49回日本臨床腎移植学会では、会長の杉谷篤先生(独立行政法人国立病院機構米子医療センター 副院長)が、たくさんの企画をされておりました。多くのシンポジウム(14テーマ)、教育セミナーの中から、小児腎移植、長期生着、生存に向けてのシンポジウム、そして「腎臓の再生」についての教育セミナーをレポートいたします。
できるだけ講演内容に忠実にレポートしておりますが、微妙に講演者の意図とずれていることがあるかもしれません。あらかじめご了解ください。

臨床腎移植学会

第49回日本臨床腎移植学会 教育セミナー①
「ここまできた腎臓の再生」 東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科 横尾隆先生

学会最終日の朝の教育セミナーにて、腎臓の再生についての最先端の話題を聞くことができました。司会は慶応大学医学部臓器再生医学講座 小林英司教授で、肝臓の再生研究の第一人者です。小林先生から、腎臓の再生を研究している日本の第一人者として横尾隆先生が紹介されました。
横尾先生は腎不全で苦しむ方々を救うために、腎臓の創生という研究を始められ、腎臓が欠損したマウスやブタの体内に幹細胞(分裂して自分と同じ細胞を作る能力と、様々な別の種類の細胞に分化する能力を持つ細胞)を入れ、腎臓を誘導して再生し、尿を作るということに挑戦されています。

横尾先生の講演の最初に1つのエピソードが紹介されました。横尾先生が天皇陛下に拝謁された際、「移植するための臓器を作りたい」というご自身の目標をお伝えしたところ、美智子皇后陛下より「それは難しそうですね」とのお言葉をいただいたそうです。
皇后陛下のお言葉のとおり、実際、iPS細胞研究が臨床応用の段階に入ってもなお、腎臓の再生研究は、心臓や他の臓器に比べて最も困難と言われています。その原因は、腎臓の構造が複雑なためであるとされています。生物が海から陸へ上がって進化する過程で、尿細管(腎臓の糸球体より集合管にいたるまでの、原尿が通り再吸収・分泌などを受ける組織)が曲がりくねって尿を濃縮する必要が出てきたために、ループした構造を取るようになったことが再生を困難にしたと考えられています。

ヒトでは尿細管がまっすぐではないので、トカゲのしっぽのように切った端から生えてくるような単純な再生ができません。再生が実現すれば、多くの透析患者さんが透析から解放され、透析医療にかかる膨大な医療費も削減されるため、再生医療への期待は大きいのですが、簡単に臨床応用できていないのが現実です。実際、障害された腎臓を修復することも大変難しいことでした。
しかし横尾先生は腎臓を修復するのではなく、新たに腎臓を作ることをテーマに研究を開始されました。透析患者さんの成体幹細胞(生物の体内に見られる最終分化していない細胞。成体幹細胞は分化能力が限られており、血液細胞や神経細胞など、特定の組織にだけ分化する。)をウシやブタの胎児の腎臓が作られる部位に打ち込み、培養することで腎臓になるためのプログラムを与え、再生腎臓作成に挑戦しています。
ウシやブタといった人間の腎臓と同じくらいの大きさの腎臓を持つ動物の胎児体内で再生腎臓を作成し、最終的に人に移植する際に拒絶反応を起こさないように、動物由来の細胞を消去するプログラムを内蔵しておいてヒト化する、という実験を積み重ねているそうです。

現在、臨床実験の前段階の、マーモセットという霊長類を用いた段階まで研究は進んでいるそうです。このヒト腎臓を作り出すプロジェクトは、横尾先生、小林先生と、明治大学の長嶋教授らによるYamaton Kと称するチームで行われています。Yamaton Kプロジェクトの内容はこのホームページ(Yamaton K project,collaborating with Jikei Medical University & Meiji Univercity)の他にも多数紹介されています。
チームの名称には、大和(日本の古い名称)によるton(ブタ)を用いたK(Kidney)の再生、という意味があるそうです。決して諦めない、明るく強い意志を持った研究チームの勢いを感じる、すばらしい教育セミナーでした。