2017年7月に小田原で行われた腎移植・血管外科研究会の初日のメインプログラムに、主催事務局である東邦大学医学部腎臓学講座 宍戸清一郎先生が司会を行い、宍戸先生の3人の先輩が登壇して移植談義を行いました。東邦大学名誉教授の長谷川昭先生、藤田保健衛生大学長の星長清隆先生、東邦大学前教授の相川厚先生の御三方です。

先生方は、現在も日本の移植学会における現役のご意見番として活躍されておられます。司会の宍戸先生も含め、みなさま慶應大学医学部のご出身で、腎移植医療における師弟関係にあり、この道に入られた経緯から改正臓器移植法施行にまつわるエピソード、改正後も献腎移植が増加しない要因などについて論議が行われました。講演内容をレポート致します。

第33回腎移植・血管外科研究会
特別セッション「腎移植の軌跡と今後の課題:3人の先輩による移植談義」

■移植医療の道に進んだ経緯
長谷川先生は日本の小児腎移植のパイオニアで、慶應大学の先輩である中村宏防衛医科大学教授の勧めでバージニア医科大学のDavid M. Hume教授の下に留学し、当時の最先端の腎移植を学んでこられました。
長谷川先生の帰国後に慶応大学で行ったスマートな講義に魅せられた医学生が星長先生で、卒業後、直ちに腎移植の道に進んだそうです。
相川先生も諸先輩の勧めで英国留学し、多くの献腎移植の臨床を学んでこられました。


■改正臓器移植法施行への道のり
日本の腎移植を牽引する先生方が執念をかけて取り組んだ臓器移植法の改正についてのお話が披露されました。
忙しい診療の合間をぬって国会議員への陳情を行い、それまで組織適合性の一致が最優先で行われていた臓器斡旋方法を修正し、小児に有利な点数をつける案を長谷川先生が推進し、現在の16歳未満、16歳以上20歳未満の小児への点数加算に至った経緯などをお話されました。
しかし、臓器移植法が改正されても一向に臓器提供数は増加せず、停滞した状態が続いています。相川先生は、法案改正に加えて、国民の理解を浸透させることが必要であると述べておられました。


■臓器移植、臓器提供推進における課題
諸外国では別々の組織が行なっている臓器斡旋業務(提供された臓器をどの患者さんに分配するか)と、臓器提供・移植推進事業が、日本の臓器移植ネットワークでは同一組織で行われているという特殊事情があるようです。
本来は臓器提供・移植推進の業務は斡旋業務とは切り離し、行政が推進して拘束力を持たせたルール作りをして、諸外国のように進めていく必要があります。例えば、医療経済的にも移植が有利であることから、臓器提供を行う医療施設にインセンティブを持たせたり、病院機能評価における臓器提供に関する説明責任を明示し、罰則を設けたりするなど、欧米では必ず行政が行なっていることを日本でも取り入れないと、適正な臓器提供は進まないと思われます。

星長先生は、脳死になってしまった患者さんには、最後に臓器提供の可能性があることをきちんと伝えなければならないと力説されていました。
長谷川先生は、多くの方が取り組んで改正した臓器移植法が実効していないことを比喩して、「高いお金を使って建設した高速道路に、たった200台ほどの自動車しか走っていない状況」と説明されていました。患者さんの苦しみを最も身近で感じて知っている移植医が前面に出て活動するべきであると述べておられました。
相川先生も臓器移植ネットワークの理事として取り組んできたルール改正(小児のドナーとレシピエントの年齢を合わせることや、臓器提供病院の負担を減らすために、1回目の脳死判定の時点で移植施設の選定を開始する改革など)が、実現に至っていないことを問題提起されていました。
長谷川先生からは、行政が行うべき具体的な方法として、臓器提供の診療報酬への反映や、正しい報道を行うためのマスコミとの協力といったアイデアが出されていました。

会場からは、熱意を持った移植医の臓器提供・移植医療推進活動には、提供側の医療スタッフとの顔の見える関係、信頼関係が重要なのは勿論ですが、現在の医療情勢、社会情勢を考慮すると、医療関係者の中にも臓器提供に反対の意見が根強いという問題があり、事はうまく進まないのではないかという意見が出されておりました。
今後は、医療安全上のリスク管理をしっかり行うシステムの上に、熱意のある積極的な移植医の関与を進めていかないとうまくいかないだろうということです。

最後に、相川先生より、臓器提供の可能性がある医療施設において、ドナーとなる患者さん家族に寄り添い、ケアをしながら活動するin houseコーディネーター(院内ドナーコーディネーター)の育成と配備が急務だというメッセージで締めくくられ、会場から3人の先達に大きな拍手が寄せられていました。