2018年5月に2日間の日程で鹿児島市で行われた第34回腎移植・血管外科研究会にて、腎移植に関わるテーマで興味深い講演がございましたのでレポート致します。発表内容は聴講した内容を記載しておりますので、発表者の趣旨と異なる可能性があります。毎度ながらご了承ください。

研究会初日、「腎移植3000例のための方法論」と題してシンポジウム2が開催されました。
後藤憲彦先生(名古屋第二赤十字病院)と荒木元朗先生(岡山大学)の司会で、改正臓器移植法施行後も増加の兆しが見えない腎移植の現状を踏まえ、年間移植数を倍増させる具体策について検討されました。
「腎移植3000例のための方法論」<中編>はこちらから。


第34回腎移植・血管外科研究会 シンポジウム2
「腎移植3000例のための方法論」
座長:後藤憲彦先生(名古屋第二赤十字病院)、荒木元朗先生(岡山大学)

「当院における腎移植体制の再構築」
宮内勇貴先生(愛媛大学)

愛媛県は人口138万人あまり、腎移植数は年間60数件と、人口当たりの腎移植数は全国1位だそうです。
愛媛大学病院泌尿器科では1982年以降、250件以上の腎移植を行ってきていますが、一時期移植数が減少したことがあるそうです。腎移植を再度活性化させる方策について紹介されました。
まず、腎移植に特有な検査を行う院内体制の整備が重要です。免疫抑制剤の血中濃度測定やHLA検査、ドナー抗体検査、腎臓病理組織検査等を、電子カルテ上で運用することが必要です。
次に重要なのは、移植手術枠の問題で、泌尿器科の他の手術との調整を工夫されていました。移植手術ではドナーとレシピエントで2つの手術室を同時に使用するため、ドナー手術の後に、ロボット支援前立腺手術を入れるなど、具体的な策を紹介されていました。
3番目に重要なのは、スタッフの教育やマニュアルの整備です。院内のスタッフに腎移植へ興味を持ってもらい、院内勉強会やカンファレンスを通じて知識を広げてもらって、移植スタッフのレベルアップをすることが、ご自身の移植技術の鍛錬とともに重要だと捉えておられました。
最後に、司会の後藤憲彦先生(名古屋第二赤十字病院)から、ロボット手術数の急激な増加と腎移植数の増加をどうやって調整しているのかについて質問がありました。同様な問題をかかえる施設は全国でも多く、参考になる具体案が提示されておりました。


「腎移植数増加のためのポイント」
岡部安博先生(九州大学)

九州大学では、一般的な大学病院の腎移植数である過去の年間移植件数(年20件前後)から、大幅に移植数を増やしています。現在、年80件を超えるペースで腎移植を行っておられます。どうやってそれを実現しているのか、課題をどうやって克服するのか、などについて、興味深い内容を講演されました。
まず、腎移植は麻酔科の管理が必要な手術であるため、麻酔科との相談が重要だと述べておられました。 また、並行してドナーとレシピエントの手術を行うと、1日1件しか移植手術が行なえないため、ドナー手術が終わってからレシピエントの手術を入れ替えで行う方法を導入されているということでした。この方法で移植手術を行うと、総阻血時間(腎臓に血液が流れていない時間)が延長する、という問題が起こりますが、現時点でそれ自体による腎機能への悪影響は起きていないそうです。このようにしてドナーとレシピエントを入れ替えで行うと、同時に2つの手術室で1日2組の腎移植手術が可能になり、移植数を増やすことができますが、2組の腎移植を並行して行える人材養成が必要で、多くの外科医が腎移植をマスターしていくことが件数増加のために必要なことだそうです。
また、手術の中止・延期などによる移植予定の変更を柔軟に行えるよう、患者さんにも常時説明を行っており、安全に移植を進めるために予定変更は躊躇せずに行うということでした。腎移植の手順は決まった方法でパターン化し、「クリニカルパス」というスケジュール化した予定にのっとって行っており、どの腎移植も共通のやり方で合併症なく行うことが必要条件だと述べておられました。
最後に、腎不全を管理する腎臓内科や透析医からの適切な紹介が腎移植のソースであるため、医療者を対象とした啓発活動や、手術の報告を欠かさずに行っているそうです。加えて、献腎移植を推進するためにはドナーの臓器提供施設への移動を可能にすべきだと述べておられましたが、これには救急担当医の合意が必要で、まだ難しい面がありそうです。この点に関して、東邦大学名誉教授の相川厚先生から発言があり、ドナーの移送に関しては規則で禁じられているわけではなく、国民の臓器提供・臓器移植に対する信頼度の問題である可能性が言及されていました。