全国でもトップクラスの腎移植実績数を誇る名古屋第二赤十字病院移植外科。こちらでは、移植医療のスペシャリストが集まった移植専門チームによって、数多くの腎不全に苦しむ患者さんを救っています。今回、その移植チームを率いる渡井至彦先生に、現在の愛知県における腎移植事情や名古屋第二赤十字病院における腎移植医療への取組み、今後の展開についてお聞きしました。

Chapter1 愛知県における移植の状況

最近の愛知県の移植の状況はいかがでしょうか。まず、献腎移植について教えてください。

献腎移植に関しては、2~3年前までは愛知県は日本の人口比で見ても多いエリアだったのですが、昨年(2013年)くらいからやや少なくなっています。
献腎移植が減っているのは全国的な傾向で、原因としては現代の救急医療によって助けられる方が増えていることや、脳死を経過して亡くなられる方が減っている可能性が考えられています。また、近年、脳死後の臓器提供が増えるに伴い、「心停止後では臓器提供ができない」という誤解が広まっていることもあり、心停止後提供ドナーが減っていることも、提供数全体を下げ、献腎移植件数を減らしている原因だと思います。

生体腎移植の状況はいかがでしょうか。

生体腎移植は愛知県全体で毎年約150件程度行われており、名古屋第二赤十字病院では、昨年は少し減りましたが、おおよそ90件実施していますので、愛知県の生体腎移植の半分以上は当院で行っていることになります。
生体腎移植件数は徐々に増えていますが、増えているのは先行的腎移植(維持透析を経ない腎移植)で、昨年当院で行われた生体腎移植のうち、約半分を占めるまでになっています。
当院における先行的腎移植の割合はここ5年くらい右肩上がりで、ついに50%にまでなったのですが(全国的には22%)、全体の生体腎移植数はそれほど増えていません。見方を変えると、透析導入した患者さんの移植を受ける機会が、移植情報を得られる機会も含めてだんだん少なくなってきているのではないかと感じています。愛知県の他の移植施設の先生方からも同じようなお話をお聞きするので、これは県全体の傾向かもしれません。

生体ドナーになられる方の傾向はありますか。

当院では、4~5年前より、親子間よりも夫婦間移植(夫または妻がドナー)が多い傾向となっており、全体の50~55%くらいを占めています。
夫婦間移植が多い要因としては、レシピエントが高齢化していることがあげられます。先日も、79歳のご主人に78歳の奥様の腎移植を行いました。レシピエントの平均年齢はここ10年で10歳程度上がっており、既に50代になっています。その年代になると、親が既に80代になっており、親から提供してもらう方は小数で、夫婦のほうが年齢も同じくらいですし、何より精神的つながりも強いので、ドナーが夫または妻になる確率が高くなっているのだと思います。
次にドナーとして多いのがやはり親(レシピエントが子ども)ですが、伯母・叔母がドナーになることもあります。

脳死後提供ドナーが増えている中、膵腎同時移植の状況はいかがでしょうか。

膵腎同時移植は、当院ではこれまで累計7例、年間2例前後行っています。皆さん順調に経過され、お元気です。膵腎同時移植希望の登録に関しては、現在、日本全国では186名、当院では15名程度が登録しています。昨年の全国での膵腎同時移植件数は33件ですので、待機者の18%程度の方が移植を受けられていることになります。