※このインタビューは、虎の門病院 分院 腎センター外科にて2016年2月に行ったものです。
Chapter2 移植医療への想い
腎移植医療に対するお考えをお聞かせください。
腎移植は、本来は献腎移植であるべきで、二次的な選択肢として生体腎移植があるのだと思っています。しかし、末期腎不全になった方にとっての腎代替療法の中では、腎移植が最良であることは間違いありません。そして、きちんとドナーの精査を行った上で生体腎移植を行うことは、ドナーに手術の負担はかけるものの、ドナーの生命予後や手術後のQOLを落とすものではありません。
移植医療は、外科手術が無事に終われば問題解決、というわけではありません。移植手術がスタートなのです。特に最初のうちは、さまざまなことが起きやすいものです。そのことも上手く受け止めて、生体腎移植を行うチャンスに恵まれたことを、おだやかにその後の人生に生かしていってほしいと思います。また、ドナーとなられた方は、手術のための検査を受けたことで、ご自身の体の状態を知ることができたと思うので、手術後は更にご自身の体に関心をもって、健康維持に努めてほしいと思います。
移植外科医として移植後に起きるさまざまなことに関わり、患者さんとともに解決していくことが自分の責任だと思っています。ですから、患者さんとは一生のお付き合いだと思って診療にあたっています。
先生はいつごろから移植医療に携わっていらっしゃるのですか。
大学を卒業後、移植外科医になりたいと考え、まずは市中病院の一般外科、救急で経験を積んだ後、名古屋大学の小児外科で生体肝移植に携わったのが始まりです。その後、京都大学移植外科でも学び、ニュージーランドで腎臓、膵臓、肝臓の移植及び移植に関わるコーディネーションなどを学びました。帰国後、ニュージーランドで学んだ、多職種の人が有機的に協力するような働き方を腎移植で実践したいと考え、名古屋セントラル病院で小さいながらも腎移植ユニットを始めました。その頃、同僚の勧めで、前 虎の門病院の部長にシャント手術の教えを請う機会がありました。そのときのことがきっかけで、虎の門病院 腎移植チームの一員となったわけです。
腎不全患者さんの治療に携わるようになってから感じていることはありますか。
医療者、特に医師の中に、腎不全に対して非常に敷居を高く感じている方がいるように思います。末期腎不全となり透析導入しなければならないような患者さんは、薬の使い方も難しいですし、腎不全に関連した心不全や感染症、出血傾向、高血圧などが起こることもあります。そのため、腎不全患者さんに対する治療がとても消極的になってしまっている場合があります。そのような状況を少しでも改善していきたいですね。
また、私は日々、腎不全と共に生きる患者さんと接する中で、患者さんたちの前向きな姿勢や生命力に触れ、患者さんから力を頂いています。今後もそのような患者さんのために頑張っていきたいと思っています。
末期腎不全における腎代替療法(透析、腎移植)に関してはどのようにお考えですか。
腎不全に比べ、心不全や肝不全はクリティカル※ですが、腎不全は透析療法という腎代替療法があるため、いい意味で、病気と付き合いながら明るく日常生活を送っている患者さんもいらっしゃいます。もちろん移植医療は素晴らしく、血液透析や腹膜透析に比べてQOLが非常に高いですが、移植医療に携わるようになったからこそ、透析を受けながら長生きするということも、とても素晴らしいことだと思うようになりました。
※重大なこと、(生死を分けるような)危機のこと
先生は、腎不全患者が生きる社会をどのように捉えていらっしゃいますか。
透析には、月間40~50万円かかり、年間500万~600万円の医療費がかかります。ただし、健康保険の適用や高額医療費の助成制度、自立支援医療、各県の身体障害者医療費助成制度などにより、患者さんの自己負担はほとんどありません。そのような整った制度の上で、患者さんが長生きできるようになり、医療技術が進歩して、結果的に、透析医療が腎不全の患者さんが暮らす社会のインフラとして整ってきたわけです。今後はソーシャルな観点で、透析患者も健常者も活躍できる世の中になればいいと思います。
私たちは、患者さんができるだけ幸せに人生を全うするにはどうしたらいいかということを一番中心に考えて治療にあたっています。その手段の1つが透析であり、もう1つが腎移植であると思います。
透析患者さんも腎移植患者さんも病気のことを隠さずオープンにして、治療を受けながら社会に参加していくことで、「そういえばうちの会社にも腎臓の悪い人がいたよな、今度、仕事が大変そうだったら手伝ってあげようかな」というような会話が普通にされるようになるといいと思います。その先に、どうすれば治療できるのか、移植のためにドナーが必要らしい、と関心が高まることで、死後の臓器提供について少しずつ社会に受け入れが広まっていくと思います。
社会への働きかけという点においては、先生は移植者スポーツの活動にも携わっていらっしゃいますね。2015年8月に開催された第20回世界移植者スポーツ大会にも、チームドクターとして参加されていますが、いつ頃から活動をされているのですか。
ニュージーランドから帰国後、日本で移植医療に携わっていきたいと考えていたところ、愛知県で移植者スポーツ大会が開催されることを知り、参加したのがスタートです。会を運営している人のほとんど全員が、移植患者さんや透析患者さんだったことには驚きました。このように素晴らしい活動をしている人々を、医療に携わる人や、病気とは直接関係のない人がサポートできればと思い、会の手伝いをするようになりました。
日本移植者スポーツ協会は、「スポーツ」を通じて移植医療の素晴らしさを国民の皆さんに広く伝えるための活動をしています。移植を受けたことによって健康を取り戻し、スポーツもできるようになった姿を、感謝の気持ちとともに皆さんに見ていただくことで、普段医療と関係の無い生活を送っている人々にも、臓器移植というものがあることを知っていただき、それが死後の臓器提供に繋がればと考えています。
最後に、全国の腎不全患者さんにメッセージをお願いします。
私たちは、腎不全ということが分かってから、さまざまな不安を抱えてこれまで暮らしてきた患者さんに、できるだけ明るい人生を歩んでいってほしいという気持ちで日々の診療を行っています。前向きな人生を送るための、さまざまな角度からのお手伝いをしていきたいと思っていますので、ぜひ相談に来ていただければと思います。