北田先生は、これまでに九州大学病院や全国各地の病院で、数多くの腎移植手術や膵臓移植、膵腎同時移植手術を行ってこられました。2015年10月からは医療法人相生会 ピーエスクリニックに籍を置き、聖マリア病院、豊見城中央病院などで移植手術を行い、移植後の患者さんのフォローアップ外来をピーエスクリニックで行っていらっしゃいます。長年移植医療に携わってこられた北田先生に、今後の移植医療への取組みについてお聞きしました。
Chapter1 移植医療を行う上で大切にしていること
先生はいつ頃から移植医療に携わっていらっしゃるのですか。
1999年からですので、20年弱携わっています。移植外科医に特化して本格的に取り組み始めたのは2005年です。2008年1月からは、九州大学病院 第一外科の移植グループのチーフとして移植手術を行ってきました。
これまでに、どのくらいの移植手術を行ってこられたのですか。
術者として2008年から、レシピエントは700例、生体腎ドナーは620例以上の移植手術を行ってきました。膵臓移植(膵腎同時移植も含む)は25例です。小児の移植は42例で、そのうち13歳以下は26例、体重が10kg以下のお子さんの手術も10例行っています。
先生が移植医療において、重視している点について教えてください。
腎移植を含めた移植医療は手術では完結せず、術後のフォローアップがとても大切ですが、まずはしっかりとした手術が行われないことには始まりません。手術とその後のフォローアップの両方がきちんとできてこそ、うまくいくのです。
私は、移植“外科医”としては、手術を安全・確実にやり遂げること、まずはこの一点に全力を注いできました。腎移植手術の中にも、型通りにはいかない、とても難しい手術もあります。手術中に思わぬ事態に遭遇することもあります。それでも引き受けた以上、必ず無事に手術を終えることが外科医の使命だと考えています。
以前、先生が、腎移植手術の際に、細い血管も含めて移植腎のすべての血管をつなぐとおっしゃっていたことを記憶しています。
細い血管まですべてをつなぐ必要はない、とお考えの先生もいらっしゃると思います。私が細い血管でもつなぐ理由は、移植腎の機能を最大限に生かしたいという思いはもちろんですが、妥協することが怖いからです。一つ妥協してしまうと、そこに気の緩みというか、隙ができそうな気がするのです。ですから、どんなに小さなことでも妥協しないということを自分の決め事としています。ただし、いたずらに時間をかけてはただの自己満足にしかなりません。妥協せず、なおかつ素早く繊細な手術を遂行することが大切だと思っています。
こだわりの手術、きちんとした手術を行えば、当然ながら術後も順調で、早く退院もできます。反対に、きちんとした手術を行っていないと、手術による合併症が、感染症あるいは拒絶の誘因となり、ひいては重篤な合併症をも招きかねません。免疫抑制薬を内服している状況下で行う移植手術ならではの難しい一面でもあるのです。当たり前のことですが、きちんとした手術を行わなければなりません。