平成28年5月下旬に開催された第32回腎移植・血管外科研究会における講演をレポートいたします。 研究会は姫路市で行われ、兵庫医科大学の野島道生先生が当番世話人で主催されました。 レポートは個人的な解釈で記載しておりますので、発表者が意図した内容と異なる場合はご容赦いただきますようお願いいたします。
「よりよい移植のための工夫:移植診療における小さくて大きい問題」
研究会初日の夕方に行われたイブニングセミナーは、学会長の野島道生先生が、大きな学会であまり取り上げられないが遭遇することが多い問題に焦点を当てて、実臨床にすぐに役立てることを目的に企画されました。腎移植の診療にまつわる諸問題について、4名の先生が講演され、会場から活発な質疑応答が行われました。司会を京都府立医科大学 吉村了勇先生と、市立釧路病院 森田研が担当しました。なかなかはっきりとした答えが無い問題もあり、今後も継続した論議を希望する声が聞かれました。
「腎移植後の内シャントの扱いについて」
北海道大学 岩見大基先生(腎泌尿器外科学分野)
血液透析を行う上で非常に重要な内シャントが、腎移植後に使われなくなった場合の処遇について、いつごろ閉鎖手術を考えるべきなのか、その効果と必要性などについて講演がありました。
内シャントは腎移植後の経過が良ければ自然に閉鎖する可能性があるため、閉鎖手術に関しては、移植後1年以上経過を見てから、自然閉鎖しない場合に検討すべきと言われています。自然閉鎖は、シャントの状態にも影響されるため、正確に予測するのは困難です。
手術による内シャントの閉鎖は、心臓負担の軽減、美容的改善、怪我による出血の危険性回避などを目的として行われ、手への血流を保つために動脈血流を障害しないように行うことが注意点になります。手術については、血管の処理のみならず、手の神経損傷にも留意して行うべき、という意見が会場から出されていました。
おおむね合意が得られた点は、移植後10年を越えるような長期間、内シャントが持続すると血管の拡張がひどくなり、心臓への負荷が生じやすいということ、そして、手首に吻合を行った場合と比較して、肘に吻合を行った場合の方がその危険性が高いということです。人工血管の場合の手術方法や、術後長期間の圧迫包帯の使用など、会場からも多数の意見が出されていました。
「抗凝固療法中の患者に対する移植」
聖マリアンナ医科大学病院 佐々木秀郎先生(腎泌尿器外科)
循環器疾患における血栓防止、凝固防止の目的で使用されるアスピリンなどの薬剤の使用は、年々増加しています。「抗凝固療法」や「抗血小板治療」に用いる薬剤の種類も増加しており、これらの薬剤の使用が、腎移植の手術時に問題になるケースが多くなっています。
特に臨時手術である献腎移植の場合、これら薬剤の影響により手術中の出血が懸念されます。心臓の冠動脈ステント治療の発達により、長期間アスピリンなどを服用することが必要な患者さんの場合、腎移植時の薬剤中止が心機能に悪影響を与えないよう事前に調べておき、急な手術時に抗血小板剤の中和ができるような薬剤を選択することができれば安心です。アスピリンのみであれば手術時にそれほど問題とならないのではないか、という意見も出されておりましたが、予定日が決まっている生体腎移植では、中止できる場合は1週間アスピリンを休んで手術を行うのが普通です。
またこれらの薬剤は、予防的な意味合いで処方されることもあるため、献腎移植待機中には、処方の中止が困難なケースなのかどうかをしっかり調べておくことが重要であるとのことでした。