「先行的腎移植Update」
司会:大塚台クリニック 高橋公太先生、秋田大学 佐藤滋先生
「PEKTの現状と課題(移植医の立場より)」
新潟大学 中川由紀先生
日本で行われたPEKTの統計を腎移植登録調査JATRE 2000~2015のデータベースから抽出し検討されました。
PEKTの利点としては、小児の発達遅延の場合に有利であることや、内シャントなどの透析アクセスが不要であることがあげられます。日本で初めて分析されたPEKTの実態データ(16,625名)から判明したことは、以下の通りでした。
PEKTは年々増加しており、2015年は全体の36%になっていました。移植後の合併症としては、透析後の移植では循環器疾患が多く、一方PEKTでは糖尿病が多かったようです。生着率で大きな差はありませんが、急性期の拒絶で移植腎機能喪失に至ったケースは、透析後の移植の場合に多くみられました。
移植前の透析期間による生存率・生着率の比較では、日本の透析の質が良いため、数年レベルでは差がありませんが、20年の透析歴のある群だけが悪かったようです。腎機能を喪失する要因は高年齢、心血管系合併症、糖尿病、心臓血管疾患、感染症、悪性腫瘍の順で多かったとのことです。
小児のPEKTの割合は成人よりも高く、新潟大学での移植症例では56%を占めたそうです。小児のPEKTでは、移植後、思春期に入り、保護者が服薬管理に介入できなかったケースで自己管理に問題が起こり、拒絶、移植腎機能喪失に陥っていました。
その他、PEKTに至る過程でどのような条件があると、移植前に透析を経る必要が出てくるかについても、サブ解析を行なっておられました。
結論としては、「PEKTは移植を安全に行うことが最優先目的であるため、透析を行わないで移植することが目的ではない」ということで、できるだけ透析を経なくて済むように、移植の可能性を提示する早期の段階から、多職種に渡る医療スタッフと患者家族の良好な連携が必要とのことでした。
「PEKTと社会復帰・泌尿器科医の関わり」
鹿児島大学 山田保俊先生
アドラー心理学によると、『働くことで他者に対する貢献感を得ることができ、自分が価値ある人間であるという自尊感情を満足させることができる』と言われており、移植後の成績も、就業の有無と相関があるそうです。
透析患者の就業率は、高齢者が多いことを加味して対象を15~60歳に限ると、鹿児島では男性の透析患者の61.4%が就業していたそうです。女性は家事を就労にカウントするかどうかで検討結果が分かれるため調査方法による違いがあり、また、移植患者の就業率は健康保険サポートの状況・福祉システムによる影響を受けるため、国別に大きな開きがあるようでした。
鹿児島大学での傾向としては、生体腎移植、PEKT、高学歴、50歳以下、透析歴1年以下、移植前も就業していた、という項目が、移植後就業の有無に関係していました。
レシピエントは最終学歴が高卒以上の人が60.8%を占め、全体の就業率は現時点で約60%で、15~60歳の男性に限ると82.4%と高くなり、さらにPEKTでは91.7%、透析後の移植者では50%であったそうです。ここでも移植後の就職状況にPEKTの優位性が挙げられます。
また、数字に現われないPEKTの効果として、家計における心配事の有無についても、PEKTの方が良好だったそうです。
山田先生は今回の学会が地元開催ということで、このPEKTのプログラムをはじめ、学会プログラムの中の移植の主要テーマを提案されました。移植を受ける側にとってのPEKTの検討のほか、医療者側、移植医側からの検討として、「泌尿器科とPEKT」という面からの検討もされており、興味深いものがありました。
先生は、泌尿器科医が腎不全患者さんを診察する際に、腎移植のオプション提示をしないことがあるのではないかと懸念されておりました。そこで今回調査したところ、説明の状況は医師の年齢や勤務形態に関係がなかったそうです。
一方、腎臓内科医は若い医師ほどしっかり説明する傾向があったそうです。泌尿器科医は、透析施設に勤務していなくてもPEKTの医療には早期に関わる可能性があります。それは、尿路結石や尿路癌、前立腺疾患などを通じて腎機能障害をきたす可能性のある疾患を診る機会が多いからです。従って、腎不全の治療早期にPEKTのオプションをしっかりと説明できる医師を育てる方針を、大学病院医師として進めていくことが重要だと述べられていました。
「PEKTの普及に向けて 移植施設の腎臓内科医が果たすべき役割」
九州大学 升谷耕介先生
腎臓内科の立場から、腎機能の悪化速度や紹介時の腎機能により、PEKTが達成できない(つまり移植までに透析をしなければならない)問題について分析されました。
腎移植の術前管理には身体医学のみならず精神面の準備も重要で、きちんとPEKTを行うまでの時間的余裕を確保するためにも、腎臓内科の果たすべき役割は大きいということを力説されておりました。
普段から移植施設と連携していない病院から腎不全患者さんが紹介されたケースでは、PEKTとして紹介された時点のクレアチニン値が既に高く、せっかく透析開始前の移植を目的に紹介されても、透析を開始してから移植をせざるを得ない状況になることが多いとのことです。そのような場合において、カテーテル透析をしながら移植までの検査を行ったケースや、既に透析の準備として内シャントが作られていたものの、幸い術前検査が迅速に進みPEKTが達成できたケースなどを紹介されました。
適切な時期に移植施設へ情報伝達されることが重要ということでした。
つまり腎移植を意識した術前の検査が腎移植紹介前にしっかりできているかどうかは、腎臓内科の関与により大きく左右され、ただ腎不全の管理をしているだけでは迅速に腎移植へ移行することは難しいということでした。
升谷先生は移植への準備が進まない要因について分析を行い、個別に対策を立てておられました。例としては、糖尿病による腎不全が原因として考えられるが、糖尿病自体の通院が途絶えている、または主治医が変わりすぎていて透析をしていてもおかしくない腎機能ながら透析を拒否している、原因となる腎臓疾患がきちんと診断・治療されていない、移植までに透析を行うべきかどうかについて判断ができていない、などの実例を挙げ、こういった問題はそれぞれが負の連鎖となって新たな準備不足の原因となっていくと注意を喚起されていました。
結論として、前述の講演でも述べられていたように、安全な移植医療を適応するためにはPEKTにこだわる必要はないが、しっかり紹介施設との連携をしていく必要があると述べられ、そのために様々な病院への情報提供を行う目標を立てておられるようでした。