前回は拒絶反応のうち抗体関連性の拒絶反応について述べさせていただきました。今回は“腎移植前には必ずしも透析を経なくても良い”というお話をしたいと思います。

透析療法は、末期腎不全に対して行われている腎代償療法の代表的治療法といえます。日本の透析患者さんの総数は約30万人に迫り(地方中核都市の人口ですね)、実に人口の約400人に1人が透析患者さんとも言えます。当然日本は世界一の透析大国であり、ちなみに世界の透析患者さんの1/7は日本人です。2010年に透析導入された方は37,532人で、亡くなられた方が28,432人ですから、2010年には透析患者さんは約9,000人増加したことになります。
一方腎移植の件数は毎年徐々に増加しているとは言え、昨年の統計で年間約1,600件程度です(最新の件数データはこちら)。人口が単純に日本の2倍のアメリカ合衆国では腎移植が毎年15,000~16,000件行われており、人口当たり日本の約5倍の腎移植が行われています。

わが国において腎移植が少ないのは、極端な献腎ドナー不足、透析医療に対する社会保障制度が充実していることなどが主たる理由と思われますが、いずれにせよ、わが国は腎代償療法においては“透析主導”と言わざるを得ません。透析医療が医療費を圧迫していることも問題になっております。

皆さんは腎移植を行う上で、まず透析に導入してからゆっくり腎移植を考える、あるいは腎移植は透析を経験してからでないと行う事ができない(医学的にあるいは医療制度の仕組みとして)というように思っていませんか?
腎移植はCKDが進行していった過程で、内服治療、食事療法などが限界に来た際に、透析療法(血液透析あるいは腹膜透析)と同時期に考慮されるべき腎代償療法なのです。つまり、透析に入る必要性は必ずしもなく、もしドナーがおり、安全に手術が可能な状態であれば、透析を経ないで腎移植をすることは可能です。これを“先行的腎移植、プリエンプティブ腎移植、PKT”と言います。当然シャントを作成する手間や、腹膜透析カテーテルを留置する手間は全く必要ありません。さらにそれにまつわる入院、手術も必要がありません。当たり前ですが透析を経ないのですから、透析の医療費、通院のための手間、食事療法、透析のための教育入院自体も無用となります。
さらに、もっと良いことがあります。透析を経てからの腎移植よりもPKTの方が、移植腎生着率、患者生存率が良好とされております。もっとも、数年という短期間であれば透析を経てから腎移植を行った方との差はないという意見もありますが、それにしても上記に書いた色々な手間が省けることは明らかにPKTに軍配があがります。目立つところに内シャントの傷がないことも患者さんにとって良いことですよね(表参照)。

PKT利点

わが国ではこのPKTの患者さんの割合が少ないことが特徴となっております。欧米では30~40%がPKTとされておりますが、わが国では純粋なPKTは10%にとどまり、移植前に数回の血液透析をされた方と併せても20%にとどまります。

それでは、CKDが進んで末期腎不全となったときに、誰でもPKTが受けられるのかと言われると、そうではありません。当然ながら腎移植にはドナーが必要です。
欧米では献腎移植でもPKTは実際には叶います。しかし、わが国では献腎ドナーが圧倒的に少ないことに加え、臓器配分ルールが待機日数にかなりの比重がかけられており、献腎移植でのPKTはほとんど不可能です。
また生体腎ドナーがいても、いきなり腎移植施設に赴き、“来週手術をしてくれ”という訳には行きません。生体腎移植は待機手術であり、多くの腎移植施設では数カ月先まで腎移植手術の予定が組まれております。虫垂炎手術の様な訳には行きません。ドナーが提供の意思を固める時間、検査に要する時間も必要です。

では、どうしたら、PKTを受けられるのでしょうか、ずばりその答えは、早期受診につきます。余裕を持って腎移植専門医へ相談をしましょう。
担当の先生が「シャントをそろそろつくりましょうか」と告げた時点がそのタイミングと思われます。そう言われた時に、自分には生体腎ドナーとなってくれそうな人もおり、是非PKTをしたいと、担当の先生に申し出てみてください。もちろん医学的に不可能な場合もありますが、まずは相談することです。何よりも腎臓を提供していただけそうな方と、時間をかけて話し合っておくことが大事です。

以上、PKTのお話しをさせていただきました。次回はこのPKTをも含めた腎移植の際の医療費、社会保障制度の実際をお伝えしようと思います。

<参考文献>
1.日本臨床腎移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2011)-2, 2010年実施症例の集計報告(2). 移植46: 506-523, 2011.
2.日本透析医学会 2010年末の慢性透析患者に関する基礎集計
3.原田 浩:先行的腎移植-成人.腎移植の全て(高橋公太編),p 187-190、メジカルビュー社、東京、2009.