前回は、ステロイドの基礎知識(ステロイド①)についてお話しいたしました。今回は、副腎皮質ホルモンの合成と作用機序、作用についてお話しします。

副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の合成と作用機序

ステロイドは副腎皮質でコレステロールから合成されます。コレステロールは色々な種類の合成酵素の働きにより、多種類のステロイドホルモンに合成されます。コルチゾールはこれらの最終的なホルモンといえます。
体の中でできた、あるいは投与された糖質ステロイド(コルチゾール)は、細胞の外側の細胞膜を通過してグルココルチコイドレセプター(GR)という受容体に結合した後、細胞内の核をかたち作っている核膜を通過し、核の内でグルココルチコイド応答配列(GRE:glucocorticoid responsive element)と結合し、色々な調節タンパクを合成します。ここにもフィードバック機構があり、微妙な調節を行っています。

副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の作用

コルチゾール作用

1. 免疫抑制作用
ステロイドは細胞内でステロイド受容体と結合して複合体を作ります。この複合体は、CBP(CREB binding protein)というタンパク質と結合し、最終的に細胞間の伝達物質であるサイトカインの合成を阻止します。
これにより免疫に重要な役割をしているマクロファージ(体内の異物を捕食している細胞)の活性を抑制し、炎症反応に深く関与しているサイトカインであるインターロイキンー1(IL-1)を抑制、さらに、インターロイキンー2(IL-2)の産生を抑制することにより、Tリンパ球の細胞障害性T細胞(感作T細胞)への分化を抑制して免疫が抑制されます。
IL-2はBリンパ球が抗体産生細胞へ分化するのに必要なことから、抗体の産生も抑制します。

2. 抗炎症作用
マクロファージの貪食能を抑制することで、それらが産生する炎症性サイトカイン(IL-1,6,8)が起こす炎症を止めます。炎症部位で誘導されてくるCOX※-2(シクロオキシゲナーゼ-2)の誘導を抑制することで血管拡張、血管透過性亢進から起こる白血球の遊走と炎症反応や痛みを抑制します。
※COX:アラキドン酸からプロスタグランジンを生成する酵素。プロスタグランジンは発熱や炎症、痛みの原因となることから、COXの働きがこれらの症状を調節していると考えられている。COXには恒常的に細胞内で一定量発現するCOX-1と免疫反応や炎症刺激によって誘導されるCOX-2の2つのタイプが知られている。

3. 糖代謝に対する作用
コルチゾールは肝臓でアミノ酸やグリセロールから糖新生(アミノ酸からブドウ糖を作る過程)を促進し、他の臓器での糖の利用を抑制することで血糖値を上昇させます。
この作用により主にストレスがかかった時に脳の機能低下を防ぎ、ストレスに耐えるようになりますが、インスリンの作用と拮抗するので、糖尿病の危険性が増します。

4. タンパク代謝に対する作用
タンパク質を分解・代謝して、アミノ酸の血中濃度を上昇させ、アミノ酸の糖新生を促進します。
肝細胞以外の臓器ではアミノ酸の取り込みを阻害して血中アミノ酸濃度が上昇します。
このタンパク質の分解により皮膚が萎縮して薄くなります。

5. 骨に対する作用
コルチゾールは骨を造る骨芽細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞の死)を誘導するとともに、骨芽細胞の寿命の短縮、機能の抑制により骨の形成能を低下させます。
さらに 腸管からのカルシウム吸収を抑制し、体内のカルシウム量を減少させたり、尿中への排泄を促進する作用を持っています。

6. 脂質代謝に対する作用
脂肪組織に作用して脂肪の分解を促進し、血中遊離脂肪酸(脂肪細胞内にたくわえられた中性脂肪が分解され、血液中に放出されたもの)とグリセロール(生体内で主に脂肪として蓄積されるトリグリセリドは、加水分解により、脂肪酸とグリセロールを生じます)濃度を上昇させます。しかし一部の組織では脂肪組織が増加するので、四肢では脂肪が減少し、背中、頸部、顔では脂肪が増加します。

7. その他の作用
赤血球増加作用、中枢神経興奮作用、胃酸増加作用などがあります。

次回は、ステロイドによる治療法、ステロイドの副作用についてお話しします。

文献
腎移植の全て 髙橋公太編集 東京 Medical View社 2009
診療薬のリスクマネジメント 松宮輝彦監修 東京 診断と治療社 2009