前回は、副腎皮質ホルモンの合成と作用機序(ステロイド②)についてお話しいたしました。今回は、ステロイドの治療法、ステロイドの副作用についてお話しします。
ステロイドによる治療法
ステロイド薬としては色々なものがありますが、ここではステロイド軟膏などについては述べず、腎移植に用いられるプレドニゾロンとメチルプレドニゾロンの治療法についてのみ述べます。
1. ステロイド療法
プレドニゾロン(PSL)またはメチルプレドニゾロンという経口薬が使われることが多く、メチルプレドニゾロンはプレドニゾロンの約1.25倍の強さがあります。これらは半減期が12~36時間と中間型に分類されるステロイドです。腎炎などの免疫抑制治療にも使われますが、ここではその場合の治療法は述べず、腎移植での治療法についてのみ述べます。
腎移植では(施設にもよりますが我々の施設では)、プレドニゾロンを初期投与量PSL50mg/日程度で開始し、3日ごとに5mgずつ減量していきます。移植後1~2ヶ月後には5mg以下に、最終的には1mg以下にして、場合によっては投与を中止することもあります。メチルプレドニゾロンを使用する施設もあり、その場合には40mg/日から始めて4mg、あるいは2mgまで減量します。連日内服と隔日(1日おき)内服があり、後者のほうが副作用は少ないといわれています。
副腎皮質ホルモンはPSL換算で2.5~5mg程度が生理的に体内で分泌されており、それ以上の量のPSLを長期に内服した場合、副腎皮質が萎縮してステロイドホルモンの分泌が極端に減ります。この状態でステロイドの投与を急に中止すると、ステロイドホルモン不足が起きて副腎不全を起こすことがあるので注意を要します。この場合は再びステロイドを投与し、様子を見ながら徐々に減らしていくようにします。ここで使用するステロイドは糖質コルチコイドですが、わずかながら鉱質コルチコイドの作用もあり、電解質の変化や高血圧を起こすことがあります。ステロイドの副作用については後で述べます。
2. ステロイドパルス療法
高濃度のステロイドを短期間、パルス(信号が脈打つこと)状に投与するためこのような名前がつけられています。
ステロイド自体は油に溶ける性質(脂溶性)がありますが、注射で投与する薬は化学的に修飾して水に溶けやすく(水溶性)なっています。投与されると直ちに肝臓で代謝されて活性型になり作用します。このような高濃度のステロイドは非特異的に細胞膜に作用し、マクロファージや好中球(白血球の一種)などの貪食作用を抑制し、細胞膜のカルシウムを抑制します。通常はメチルプレドニゾロン250~1000mgの点滴注射を2~3日間行います。
ステロイドの副作用
ステロイドは強力な薬といえ、作用もありますが、副作用も多くあり、使用にあたっては注意を要します。副作用について色々と述べるとその多さから恐怖を覚えて服用するのが嫌になるかもしれません。しかし、腎移植では免疫抑制薬として非常に重要でほぼ全ての腎移植で使用されます。
また、最近は腎移植後のステロイドの使用量はかなり減っていて、途中で中止したり、全く使用しない施設もあります。
薬には必ず副作用がありますので、副作用に関する知識を持っていることは大切なことです。しかし、副作用を恐れるあまり、薬の大切な作用を使わないのは本末転倒です。もちろん副作用が主作用を上回る場合には薬の服用を中止します。
1. 感染症
免疫力を低下させるために、細菌、ウイルス、真菌(かび)などの感染症にかかりやすくなります。移植後は特に、手洗い、うがい、マスク着用、人混みを避けるなどの一般的な注意が必要です。感染のリスクが高いと考え
られる場合には抗菌薬や抗真菌薬などを予防投与することもあります。
2. 代謝障害
(1)高血圧症
体内に塩分が溜まりやすくなるために、浮腫んだり血圧が上がったりします。塩分を取りすぎないようにします。 必要に応じて、利尿薬や降圧薬を服用します。
(2)高血糖(糖尿病)
糖を合成する働きを高めるため、血糖値が上がります。投与量が多いほど血糖値は上がるので、特に投与量が多い間は、食事療法と運動療法による予防が大切であり、経口血糖降下薬やインスリンによる糖尿病治療が必要な場合もあります。
(3)高脂血症
コレステロールや中性脂肪が高くなり、動脈硬化を促進します。食事に注意し、コレステロールや中性脂肪を下げる薬の内服が必要になることもあります。
3. 消化性潰瘍
消化管粘膜が弱くなるため、潰瘍ができやすくなります。重症になると出血や消化管穿孔を起こすので、注意が必要です。ステロイドの投与量が多い時期は胃酸分泌を抑制する薬や胃粘膜を保護する薬を予防的に内服します。
4. 骨・筋肉の障害
骨粗しょう症といって骨密度が減少して骨がもろくなり、圧迫骨折や大腿骨頸部骨折などが起こりやすくなります。以前はステロイドの大量投与により大腿骨頭壊死を起こすことがありましたが、現在はほとんどありません。予防薬として骨を守る薬(ビスホスホネート薬など)を内服することもあります。筋力が低下することがありますが、服用量の減少により回復します。
5. 眼の障害
白内障の進行を早めるので長期に内服する場合は眼科での定期的検査を行い、必要であれば点眼薬で予防します。また、眼球の圧力(眼圧)が上がる緑内障になることがあり、ステロイド薬の減量・中止が必要になります。
6. 精神障害
不眠症、多幸症、うつ状態になることがありますが、ステロイド薬の減量により後遺症なしに改善します。
7. 皮膚の障害
「にきび」ができやすくなります。増毛、脱毛が見られることもあります。また皮膚が薄く、弱くなるので、傷つきやすくなります。
8. 血栓症
出血を止める働きをする血小板の機能が亢進するため、血栓症が起こりやすくなるので、予防的に抗血小板薬を内服することもあります。
9. ステロイド離脱症候群
ステロイドの直接的な副作用ではありませんが、長期にステロイドを内服した場合、副腎皮質が萎縮してステロイドホルモンが分泌されなくなります。その状態で急に薬の服用を中止すると体の中のステロイドホルモンが不足し、倦怠感、吐き気、頭痛、血圧低下などの副腎不全の症状が見られることがあります。そのため、中止する場合には徐々に投与量を減らす必要があります。
10. 満月様顔貌(ムーンフェイス)、中心性肥満
食欲の亢進と脂肪の代謝障害により顔が丸くなったり、体幹が肥満を起こしたりしますが、最近の腎移植におけるステロイドの使用量で起きることはほとんどありません。以前は、ステロイドの影響で顔が丸くなる腎移植患者さんがいらっしゃいましたが、現在はそのようなことはありません。
11. その他
生理不順、不整脈などが見られることがありますが、いずれもステロイド薬の減量により改善します。
文献
腎移植の全て 髙橋公太編集 東京 Medical View社 2009
診療薬のリスクマネジメント 松宮輝彦監修 東京 診断と治療社 2009