今回から、腎移植に用いる免疫抑制薬について解説していきたいと思います。第1回目はステロイドです。
ステロイドの基礎知識、副腎皮質ホルモンの合成と作用機序、ステロイドによる治療法、ステロイドの副作用などについて順番にお話ししていきます。
ステロイドとは
ステロイドや副腎皮質ホルモンは割合と良く聞く薬の名前だと思います。
一般にステロイドというと別名コルチゾールと呼ばれますが、化学的にはステロイド核という化学構造を持つホルモンをステロイドホルモンと呼びます。ステロイドホルモンには各種の性ホルモンや副腎皮質ホルモンがあります。
副腎皮質ホルモンは両方の腎臓の上端内側にある副腎という小さな臓器(数cmの山吹色の柔らかい臓器です)から作られるホルモンの1つです。副腎は2層構造になっていて、皮質と髄質に分かれており、この内の、副腎皮質から分泌されます。
副腎皮質で合成、分泌されるホルモンには糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド(アルドステロンなど)、そしてアンドロゲン(男性ホルモン)があります。
これらのホルモンの分泌は、脳の下部にある脳下垂体という部位から分泌されるACTHというホルモンにより促進され、さらにACTHの分泌は、やはり脳にある視床下部という部位から分泌されるCRHというホルモンにより調節されています。逆にステロイドホルモンの産生・分泌はフィードバック機構により調節されており、血中の糖質コルチコイド濃度の上昇はACTHの分泌を抑制します。ステロイドを長く服用しているとフィードバック機構により副腎皮質の萎縮が起きます。何段階にもなっていて複雑ですね。
なお、ステロイドホルモンの分泌には日内リズムがあり、深夜から朝にかけて多く、それ以降は徐々に少なくなり夕方ごろ最低となります。そのため、ステロイドを服用するのは朝の方が良いといわれています。
鉱質コルチコイドの代表であるアルドステロンは腎臓に作用してナトリウム(Na)の再吸収を促進します。Naの再吸収により水分の再吸収が増加して、血圧上昇につながります。また、Naの再吸収と同時に腎臓からカリウム(K)が排泄され、場合によっては低K血症を引き起こすことがあります。
その他、男性ホルモン(テストステロンなど)は精巣で、女性ホルモン(エストロゲンなど)は卵巣で作られるステロイドホルモンですし、脳内で合成されるステロイド(ニューロステロイド)もあるのですが、ここでは副腎皮質ホルモンの話だけをします。化学的に合成されたステロイドもあり、それぞれ作用時間や強さなどが異なります。作用時間によって、短時間作用型、中間型、長時間作用型があります。ステロイドは生命の維持に必要不可欠なホルモンです。
治療薬として用いられる副腎皮質ステロイドは、多くの場合は糖質コルチコイドを指しており、抗炎症作用あるいは免疫抑制作用などがあり、さまざまな疾患の治療に使われていますが、副作用にも注意する必要があります。ステロイドの作用については別途述べます。このコラムでは、ステロイド、副腎皮質ホルモン、ステロイドホルモン、コルチゾールは同じものと理解していただいて結構です。
余談ですが、副腎にこれらのホルモンを過剰に出す腫瘍ができることがあり(多くは良性)、これが原因で高血圧などの症状を呈する病気があります。この場合は副腎の手術を考慮します。このような高血圧は手術で治すことができ、降圧薬を中止できるので、ちょっと覚えておくと良いでしょう。
次回は、副腎皮質ホルモンの合成と作用機序、副腎皮質ホルモンの作用についてお話しします。
文献
腎移植の全て 髙橋公太編集 東京 Medical View社 2009
診療薬のリスクマネジメント 松宮輝彦監修 東京 診断と治療社 2009