開け放った窓から、降り注ぐ日差しとさわやかな風を浴びて、すがすがしい朝を迎える毎日を過ごしていますか? さわやかな風、そう、換気が大切ですよね。外のきれいな空気を入れると、気持ちもリフレッシュできそうです。これまでの予防対策、「手洗い第一」をしっかりと行い、マスクもきちんとして、うがいもして、「できる限り外出しない」。どうしても外出しなければならないときは、「ソーシャルディスタンスを守る(人との距離を2mあける)」を、ほとんどの方が実行しています。エアロゾルという密な空間に漂っているかもしれないウイルスも、しっかり換気をすれば吹っ飛んでいってくれます。
でも、非常事態宣言も延長しそうだし、メディアは毎日、新型コロナウイルスの感染者が増え続けている、と伝えているじゃない、とても安心なんてできないわ、と思っている方もいるでしょう。けれど、かの国とは比較にならないくらい日本の被害は少なくて済んでいます。日本の極めて優秀な救命医療体制を含む医療施設の頑張りの甲斐があって、新型コロナウイルス感染によって4月27日現在までに不幸な転帰をとった方の数は、人口当たりで比較すると、世界平均の約10分の1です。そして、北米、ヨーロッパを含む経済協力開発機構(OECD)加盟国36カ国中、最も低いのです(2020年4月17日現在)。ちょっと、ほっとしていただけましたか。我々の団結力と、未知の感染症に素早く警戒心を発揮できる日本文化のお陰でもあると思います。ですが、いつまでこうした警戒が必要なのでしょうか。そして、今、どれほどのことが分かり、私たちはどのような希望を持てばいいのでしょうか。
※このコラムは2020年5月1日時点の情報に基づいて書かれたものです。

移植者と新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症がなぜ重症化するかについては、ウイルスが感染した細胞から出るサイトカインという物質による炎症と、それに引き続く、感染した細胞に対する免疫反応が引き起こす炎症が原因であることが分かってきました。つまり、ウイルスを駆逐する治療と、感染した細胞や免疫反応による炎症を抑える治療が必要となるわけです。
移植者は、免疫抑制薬を服用しているので免疫反応がある程度抑えられており、ウイルス感染しやすい、または感染時に重症化しやすい可能性があり、事態を重視した日本移植学会は、2月26日にCOVID-19対策委員会を設置しました。これまでに使われた抗ウイルス薬の効果を見極め、感染時に迅速な対応ができるよう準備を進めています。そして、感染した移植者を登録する制度を作り、英知を集結して治療にあたり、どのような治療が有効かを積極的に検討しています。
現段階での日本移植学会からの提言では、移植者及び医療者の感染予防の徹底、そのための定期受診間隔の延長、感染が疑われる際の迅速な対応と高次医療機関との連携が呼びかけられています。国内外の報告では、移植者の感染時の治療については、免疫抑制薬が減量されることが多く、国内外で検証されている抗ウイルス薬が効果を示す例などもあり、多くは中等症より軽くその後回復し、重症化しても回復した移植者の報告もあります。
心配は絶えないと思いますが、少しずつですが確実に対応策は増えていますので、今しばらく、しっかり予防を徹底した生活を続けてください。また、移植からの期間やこれまでの経過によって、治療や服薬内容は人それぞれですので、どのような形態で診療を受けていくかは、担当医やコーディネーターとよく相談しましょう。そして、体調や症状など、心配なことをいつでも連絡できるようにしておきましょう。

希望を持って感染予防を続けましょう

それにしても、いつまでこの災難は続くのでしょうか。今すでに感染している方が、今後続々と発症し、それに伴って重症者も続々と増えていく、という心配が現実になるのでしょうか。家族で家にこもっているときに、誰かが感染していたら家族全員かかってしまうから、しばらくしたら、どんどん感染が広がってしまうのではないかと思われる方もいるでしょう。かたや、自分はこれ以上なくしっかり予防しているから大丈夫と、安心している方もいるかもしれませんね。
私が思うに、少なくとも移植者は、ご家族も含め、接触感染を中心とした予防がきちんとできていると思いますし、世の中では、感染症状が出た方々は、医療機関の指示に従い回復したか、現在も感染させない努力を続けている方がほとんどだと思います。そして、世界の新型コロナウイルス感染の第一波は収束に向かっているという見方もあります。だとすれば、新規に検査が陽性となる方は、ある程度の数で留まる日々が続いた後、緩やかに(ひょっとしたら結構早めに)減少していくはずです。やったー!
と、バンザイしてすぐには喜べないのが、このウイルス感染症の憎たらしいところです。現在は90%以上の人が感染していないと期待されており、この方々(きっと自分も含め)ができるだけ感染しない方策をとり続け、そして、感染者が市中からいなくなったときが、完全な収束といえるのです。けれど、誰一人感染していないと確認することは至難の業であり、それを待つのにはとても長い時間がかかりそうです。なので、ある程度、感染者数の減少傾向が見えてきたとき、社会活動を徐々に再開していこう、となると思われます。この時に、予防の手をどのように緩めるかが、第二波の感染の流行の大きさを左右します。このときのために、一人ひとりがスマートに自分を守るすべ(手洗い第一、うがいと適宜マスク、人が3人以上いるところでは換気、そして健康維持)を身に着け、ひとたび外に出かけたら他者を気遣う気持ち(咳エチケットと、感染者を含む社会弱者への思いやり)を持ち続けることを、自然にできるようにしておこうではありませんか。
この度の大災害で、誰もが何かを失くして、一人残らずみんな大きな痛手を負っています。けれど、つらい思いをしたからこそ、私たちにはお互いに助け合う気持ちが自然に生まれてきているはずです。自分と大切な人をこの憎きウイルスから守るために、この気持ちを忘れず、これまでに身に着けた行動を続けていただきたいのです。心よりお願いいたします。

これまでの日常が突然一変してしまい、すべての人の生活が脅かされている今、自分と大切な人を守るための知見を共有し、何ができるかをあらゆる視点から考えたいと思っています。そして、人と距離を取らざるを得ない今この時も、大切な人たちとの「心の」距離は離さないでいたいと思います。今しばらく、予防をしっかり続けながら、希望を見つける努力を続けていきたいと考えています。