家庭内感染を防ぐために

TOKYO2020の余韻を感じていられないほど、かつてない天災に遭った地域の方々を心配する日々が続いています。なんとか安全にお過ごしいただけるよう願わずにいられません。
そして、引き続き新型コロナウイルス感染対策にも気を引き締めていかねばならないのが現状です。感染力が強まったデルタ型への置き換わりは、東京ではもはや新規感染者の9割に及びます。そのような中、新型コロナウイルスへの感染経路の半数は、家庭内感染となっています。このことは、家族にもし感染者がいたら、高い確率で感染してしまうという一方で、家庭内感染を防ぐことができたら、新規感染者を大きく減らすことができるということでもあります。

でも、家庭内感染を防ぐにはどうすればよいのか、はっきりわからない方も沢山いるのでは、と思い、「感染が疑われた方」が家庭内にいる場合の、家庭内でとるべき具体的な行動についてお話ししたいと思います。ワクチンを2回接種後、2週間以上たてば感染しないのでは?という疑問については、「重症化は予防できそうですが、感染が完全には防げない可能性がある」というのが実情ではないでしょうか。過剰な不安を抱えないためにも、本稿を参考にしていただければと思います。

家庭内感染の予防策

まず、基本的な対策としては、皆さんもよく理解されているように、「目に見えないウイルスをイメージして、それを、吸い込まない、外へ換気する、ウイルスが付いたと思われるところやモノは洗う、または消毒する」です。
ですが、なかなか簡単ではありません。「感染が疑われた方」は、症状が出なくても、検査のための外出以外は、10日間、できれば14日間、家の中にいましょう。本稿で述べる対策もこの期間内のことです。

①部屋を分ける
同居家族のいる方は、お風呂とトイレの時間以外は自分の部屋にいましょう。部屋から出るときは、必ず不織布のマスクをして、自分が触ったところはアルコールなどでしっかり消毒します。自分の部屋の窓は開けて、扇風機を外向きにつけておきましょう。この方法で、自分の部屋から家庭内の他の部屋へウイルスが流れなくなります。エアコンは使ってかまいません。

②食事について
食事は自分の部屋で食べ、できれば使い捨て食器を使いましょう。使い捨てではない食器は、洗剤で洗えば大丈夫ですが、食事の際の飛沫がついた食器を洗うときに水しぶきがおこることを考えると、食器を一度、次亜塩素酸液などの消毒液につけてから洗うほうが安全です。

③ごみの出し方
ごみが溜まったごみ袋は、しっかり口を縛っておきましょう。感染者から出るごみは、ビニール袋にいれて、3日ほど誰も触らなければ、ウイルスはいなくなります。

④洗面やシャワー
洗面は実は難題です。うがいした水にはウイルスが沢山含まれ、吐き出すと空気中にも飛び散ってしまいます。この事を考えて、最も厳密に対策をするならば、換気扇を回して扉を閉めたお風呂での洗面をお勧めします。お風呂は一番最後に入り、その後しっかり掃除することが勧められています。
最初の1週間くらいは、共用の洗面所、お風呂について、消毒や換気に特に気を付ける必要があると思います。感染していない人も、掃除、消毒、換気を行うときは、必ずマスクをしてください。洗面、お風呂の掃除は、飛沫が付着し、その後体が触れたと思われるところを洗剤で洗い、換気をしておけばよいと思います。いつもの浴槽、床の掃除に加えて、椅子、シャワーヘッド、扉の取っ手、蛇口、シャンプーリンスの容器など、触りそうなところを洗剤で洗うかアルコールなどで消毒しましょう。もちろん、掃除の後、自分の手もしっかり洗いましょう。

⑤衣類の洗濯
衣服は、洗濯前はウイルスがついていますが、洗剤で洗えばウイルスはいなくなります。心配であれば高温洗浄という方法も効果があります。また、ビニール袋にいれた衣服は、2日ほど誰も触らなければ、ウイルスは消えてしまいます。

⑥トイレ
トイレは、少々やっかいです。排泄したモノにもウイルスがいるからです。常に換気扇を回しておき、用を足した後、流す前には、必ず便器の蓋を閉めましょう。 使用後はできれば、マスクをして触った場所を消毒しましょう。
家庭内で使うマスクは、毎日または適宜交換して、外側を触らないようにしましょう。
面倒ですがここまでしないと、ウイルスは体のあちこちに滑り込んできてしまいます。手強いやつらです。

ここまで、もしもの時のことを書きましたが、「感染してしまったら、ここまでしなければならないのか、これまでずっと気を付けてきたのに、さらに心配が増えた」、などと思われた方もいるかもしれません。心配を増やしてしまったとしたら、とても申し訳なく思います。
まずは、これまで行ってきた感染予防行動によって、感染を防いでいることにはぜひ自信を持っていただきたいと思います。ですから、これまで述べたことは万が一の時のために、ウイルスを絶対に寄せ付けないための行動をするなら、という感じで捉えていただきたいと思います。

治療薬への期待

現在、様々な国で治療薬の開発が進められています。
この7月には、新型コロナウイルスの変異株にも有効性が確認されている、抗体製剤の「ロナプリーブ」が承認されました。これは感染の初期に点滴投与することで、ウイルスの増殖を抑制する働きを持ちます。発症から7日以内、重症化リスクのある方(免疫抑制状態の臓器移植者や、透析中を含む慢性腎障害、高血圧を含む心血管疾患、糖尿病、BMI30kg/㎡以上の肥満、50歳以上など)が、軽症(酸素投与なしで酸素飽和度が93%以上)である場合に適応されます。感染後の対策が準備されてきたことは、大きな安心材料になりますし、今後、他の治療薬の開発にも期待したいところです。

最後に、とても大切なことですが、家族皆の体と心を、出来るだけ健やかに保ちましょう。感染した人は責められる対象ではなく、守られるべき対象であり、その大切な家族も、守られるべき対象です。悪いのはウイルスです。ウイルスに負けない体と心のために、朝の太陽を浴びたり、できるだけ笑ったり、美味しいものを食べたり、できれば体操などをして体を動かし、体力も維持しましょう。


■参考:東京iCDC専門家ボード感染制御チーム「新型コロナウイルス感染症 自宅療養者向けハンドブック」2021年1月  自宅療養者向けハンドブック 東京都福祉保健局