新型感染者数が下火になり、少しほっとした気持ちで過ごす今日この頃ですが、頭の片隅では、「次の波が来るまでにどんな準備をしておけばいいのか」とつい考えてしまいますね。先日、ファビピラビル(アビガン)開発に携わられた白木先生のお話を聞く機会があり、抗ウイルス薬のこと、そして新型コロナウイルス感染症にかかった人の体の中で何が起きているのかを勉強してきました。

重症化のメカニズムの解明

新型コロナウイルスは、口、のど、鼻や目の粘膜から感染しますが、新型コロナウイルス感染症によって困るのは、感染した人の中に重症化する人がいるからです。この重症化のメカニズムが解明されてきたことにより、「ウイルスが増えても、悪さをされなかった人と、症状が進んでしまった人」の違いと、症状が進んでしまった人の場合、「ウイルスが悪さをしたのか、自分の免疫反応が悪さをしたのか」の違いを判断することが、診断、治療の決め手となることがわかってきました。

新型コロナウイルスは、ヒトの粘膜細胞表面にあるACE-2にウイルス表面のスパイクタンパクが結合し、細胞内に侵入して感染が成立します。その後、細胞内でウイルスが増殖し、その細胞を破壊して多数のウイルスが周囲に広がります。このとき、ワクチン接種をした抗体を持つ人では、血液中にある抗体がウイルスに出会ってスパイクタンパクをブロックし、さらなる細胞への感染を防ぐことができます。
また、ワクチン接種後は免疫反応の準備ができているので、いち早く新型コロナウイルスの侵入を察知して、Tリンパ球を中心とした免疫機構が働き、感染した自分の細胞を破壊することで、ウイルスが増殖しないようにします(細胞性免疫)。この過程で免疫担当細胞からサイトカインが放出されて、発熱、および局所の炎症が起きます。また、さらなる抗体の産生が進みます(液性免疫)。

免疫のしくみ

これらの免疫反応は、ワクチン接種をしていない人にも起こるので、速やかに、かつ狭い範囲で収束すれば、無症状、または、上気道だけの症状で治まります。これまでの感染者の約80%の無症状か軽い症状であった人々は、このような人々です。
しかし、ウイルスをなかなかやっつけられない人では、広い範囲に感染して臓器が傷害されたのだと思われます。一方、下線の部分は、免疫反応により自分の細胞が損傷したり、破壊されたりしていることをあらわしており、この範囲が広く、長い時間に及ぶことで重症化した人がいたわけです。
ACE-2は口、鼻、目の粘膜だけでなく、気管支や肺の細胞、血管の内皮細胞、脳を含む神経細胞、胃腸の粘膜の細胞、腎臓の細胞などにもあるため、気管支や肺への感染は肺炎になり、血管内皮細胞への感染は血栓症を引き起こすことが分かってきました。
そして、ウイルスによる細胞破壊だけでなく、感染細胞に対する反応が炎症を引き起こし、さらには下線を引いた免疫反応の行き過ぎが、ウイルスがいなくなったのちも臓器の障害を進行させ、全身状態を悪化させることが分かってきたのです。

新型コロナウイルス感染症への対策

これらのことを踏まえて、新型コロナウイルス感染症への対策を整理してみましょう。

■治療薬について
まず、ウイルス撃退に直接効果のある抗体カクテル療法や、今後承認されてくるであろう抗ウイルス薬は、体にウイルスが入った際にすぐに使うことで、最大の効果が発揮されることがはっきりしてきました。このタイミングを逃さず、重症化リスクの高い人に使用することで、感染したとしても重症化せずに治る可能性が高くなると考えられます。

■ワクチンについて
ワクチン接種による免疫反応の準備は、ウイルスが侵入してきた際に、ワクチン接種をしていない人よりも素早くウイルスに反応できる点で、ウイルスを増殖させずに治る可能性が高まります。この反応性の高さを維持するために、現在3回目のワクチン接種が計画されているわけです。それでも中には重症化してしまう人がいると思われるのですが、ウイルスが広がりやすい臓器(肺など)、起こりやすい症状(血栓症など)、そして自分の免疫の行き過ぎを抑える治療法がかなり解明され、準備が整ってきました。
そのため、ウイルスをやっつけるのか、自分の免疫を抑えるのかを適切に見極めて対処し、損傷を受けた臓器の働きを助ける治療を行うことで、大多数の命を救うことが可能になると思われます。

■マスク、手洗い・うがいの継続
現在日本では感染者が減っていますが、予防はやはり大切です。ウイルスが粘膜につかなければ感染は防げますが、ワクチン接種をした人でも粘膜上には抗体が存在しないので、最初のウイルス感染を防ぐことはできません。ですから、ワクチン接種をしていてもウイルスがいそうな環境では、マスクなどでの粘膜防護と手洗いうがいでの飛沫および接触感染予防、そして節度ある感染予防行動が今暫く必要なことをご理解いただければと思います。そして免疫力を維持するために楽しいことを見つけ、明るい生活を続けてください。