現在の感染状況概要(世界のワクチン接種状況とその後の感染者数推移)

アメリカのニューヨーク州では、クオモ知事が新型コロナウイルスの感染拡大に伴い2020年3月に宣言した非常事態を6月24日に終えると発表しました。ニューヨーク州では18歳以上の71.2%が新型コロナウイルスのワクチンを少なくとも1回接種し、検査による陽性率は7日間の平均で0.4%まで減少したということです。そのため、ニューヨーク州では、商業施設でマスクを着用することや、隣の人と距離をとることなどの制限が解除されました。
一方で、アメリカ国内では、インドで確認された変異ウイルスの感染者が急激に増加しています。しかし、ワクチン接種が40%を超えている国では、感染者数が劇的に減少しています。
NHK新型コロナウイルス特設サイト

ワクチン接種により、明らかに感染者数が減少し重症化の割合も減っているので、ワクチンがこれまでの不安を減らす明るい材料であることは間違いありません。しかし、感染がなくなったわけではなく、免疫力が抑えられている人に対するワクチンの予防効果、および感染時の回復力は、健常人と同じとは言えないことも事実です。実にやるせないですが、移植者の皆さんは、やはり、感染の可能性がある環境への接触を最小限にする姿勢(マスク、手指消毒、密閉環境や人の多いところを避ける、家族以外とのマスクなしの会話を最小限に)は、持ち続けていただきたいと思います。

ワクチン接種への心がけ

■ワクチンを接種できない人、接種に際し慎重になるべき人
ワクチンを接種できない人は以下のような方々です。
① 発熱、急性の呼吸器症状がある、またはCOVID-19感染中の人
② 急性疾患治療中の人(急性疾患による消耗や、免疫力低下により、充分なワクチンの効果が期待できない可能性があることと、ワクチン接種による副反応があった場合、治療中の疾患による症状かどうかわかりにくいため)
③ 新型コロナワクチンでアレルギー反応を起こした人
④ ワクチンの構成成分(ポリエチレングリコール、ポリソルベート)にアレルギーのある人(ニフレック、グラン、オロナイン軟膏や化粧品など多くのものに含まれ、アレルギーが特定できる人は成分を調査すべき)

また、ワクチン接種に際し慎重になるべき人とは、以下のような方々です。
① ポリエチレングリコール以外のワクチンの構成成分(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロー3-ホスホコリン、および、ファイザー社では [(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル]ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカン酸エステル)、モデルナ社ではヘプタデカン-9-イル8-((2-ヒドロキシ エチル) (6-オキソ-6-(ウンデシルオキシ)ヘキシル)アミノ)オクタン酸エステル) にアレルギーのある人。これまでにワクチン・薬剤のアナフィラキシーの既往のある人は、その薬剤の添加物に、これらの成分が含まれていないかを照合しておくことが望ましい
② 妊産婦さん(ワクチンによる妊婦、胎児への影響および授乳への影響は明らかでないが、希望すれば接種は可能)
③ 慢性疾患の治療中などで、接種に不安のある場合(納得いくまで主治医と相談を!)

■ワクチンの副反応
ワクチンの副反応は、接種部位の痛み・腫れや熱感、倦怠感、関節痛、微熱、頭痛、眠気などです。打った方の腕が上がらないという人もいます。傾向としては、年齢が若い人ほど、そして、1回目より2回目の方が、副反応が強い印象があります。副反応は大体1~2日、長くても4日以内には治まります。
ワクチン接種にあたっては、アナフィラキシー反応という、多くは15~30分以内に起こる強いアレルギー反応に注意するため、15~30分の間、帰宅せず待機します。具体的な症状は、全身のじんましん、舌や唇の腫れ、呼吸困難、腹痛・嘔吐などですが、進行すると血圧低下や意識障害などが起きることがあります。これらの症状は、その兆候を的確にとらえて早く対処することで、進行を止め回復することがほとんどです。ですから、この待機期間に、アナフィラキシーを疑う症状がないかを観察し、すぐに対処するよう接種会場では配慮がなされています。アナフィラキシーは、まれですが、4時間以内に起こることもあるので、帰宅後も体調の変化を感じたときはすぐに医療機関に連絡、または救急車を呼ぶことも覚えておいた方がよいでしょう。
先の副反応は4日以内に治まるとお伝えしましたが、万が一、高熱が出たときや、症状が4日を超えて続くときは、感染症の可能性を考えて医療機関に相談しましょう。ですから接種後は、可能であれば出勤などの調整をしておくことが望ましいと思います。わからないこと、心配なことは遠慮なく担当医と相談しましょう。

■移植者に対するワクチン接種について
移植者に対するワクチンについての、学会及び私の意見としては、
① 臓器移植患者さんが免疫抑制薬内服のため、ワクチン接種による抗体産生の割合が対象となる健常者群と比較して低いとしても、ワクチンによる感染予防、重症化予防の働きは、抗体のみで測れるものではなく、記憶リンパ球などが準備され、ウイルス到来時の即時反応が期待されていること
② 臓器移植者、免疫抑制薬内服者に、ワクチン接種による有害事象が有意に増加したという報告は、これまでにないこと
③ 新型コロナウイルス感染による重症化の可能性、及び、感染期間が通常の10日前後でなく4週間程度に延長する傾向が報告されているので、罹患中の体調悪化と移植腎機能への影響、後遺症のリスクから、取りうる予防策は最大限取るべきであること
の3点から、ワクチン接種が強く推奨される、と考えます。
日本移植学会 COVID-19 ワクチンに関する提言(第2版)
日本移植学会 新型コロナウイルスワクチンに関するQ&A(移植者用)

変異ウイルスに対するワクチンの効果について

本年3月に、中東、カタールから、大変明るい報告がなされました。ファイザー社mRNAワクチンを2回接種した人が、人口の約10%(28万人)だった段階で、新型コロナウイルス感染の45%がアルファ変異株(イギリス型)、約50%がベータ変異株(南アフリカ型)だったのに対し、ワクチンの有効性は、それぞれ90%、75%だったそうです。その上、重症化予防効果は97%以上とのことでした。しかし、この予防効果は、2回接種後2週間たった時点のもので、検査陽性率(感染した人)は、明らかに1回接種後の方が2回後より多く(PCR陽性率 1回接種後:2回接種後は、アルファ株 42%:10%、ベータ株 46%:20%)、また、重症化率も1回接種後の方では明らかに高かったのです(1回接種後:2回接種後=39%:3%)。
すなわち、ワクチンは、2回接種後2週間たった後に、変異株に対しても十分な予防効果が得られるということがわかってきたのです。
(Abu-Raddad L et al. Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 Variants N Eng J M, 2021)

また、5月18日のAFP通信によれば、米ニューヨーク大学グロスマン医学部と同ランゴンメディカルセンターの研究では、ファイザーおよびモデルナの新型コロナウイルスワクチンが、デルタ変異株(インド型)に対しても極めて有効と発表されたそうです。
(https://www.afpbb.com/articles/-/3347207)
その後、6月29日にモデルナ社からも、デルタ変異株への有効性が発表されています。 英国公衆衛生局からも、ファイザー社ワクチンのデルタ変異株への有効性が、2回接種後で88%、アルファ変異株で93%であったのに対し、1回接種後では、それぞれ、33%、50%であったとの報告があります。
(https://www.gov.uk/government/news/vaccines-highly-effective-against-b-1-617-2-variant-after-2-doses)

2021年4月にフランス保健省は、臓器移植患者さんに3回のmRNAワクチンを接種する方針を発表し、その後の調べでは、新型コロナウイルスに対する抗体産生が、2回目接種後40%だったのが、3回目接種後には68%に増加したことが確認され、3回接種の有効性が考慮されていると報告されました。
(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2108861)
この報告について、NEJMは賛否を保留していますが、ワクチンを打つことのブースター効果が、免疫を抑えている移植患者さんにも認められるという証拠であり、ワクチンの効果があるという裏付けとしては評価されるとしています。
(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMe2110531)

先に述べたように、抗体産生だけが予防の指標でなく、またワクチンの効果をすべて示すわけでもないと考えられていますから、現状では、ワクチンを2回接種して2週間経つことで、ワクチンによる一定の予防効果を得られた生活が過ごせる、と考えるのが良いと思います。
以上、新型コロナウイルスワクチン接種についての現在の考え方について述べましたが、新型コロナウイルスの感染予防および、感染後の重症化軽減に寄与することが期待されるワクチン接種については、移植の主治医と十分に相談の上、検討していただければと思います。