前回は、免疫抑制剤と相互作用のある、セント・ジョーンズ・ワートについて解説いたしましたが、今回は、次の内容について解説します。
(1)免疫抑制剤とグレープフルーツの相互作用とは?
(2)グレープフルーツ以外で、同じ相互作用を起こす果実は?
(おまけ)免疫抑制剤以外で、グレープフルーツとの相互作用を起こす可能性のある医薬品は?

免疫抑制剤の服用者が、グレープフルーツを摂取すると免疫抑制剤の血中濃度が上がってしまい、適切な免疫の状態を維持できないため、摂取は避けましょう。

グレープフルーツ

グレープフルーツ(学名:Citrus x paradise)は、西インド諸島バルバドス島を原産としたブンタンとオレンジの交雑種です。
果肉が白色、ピンク色、赤色などの様々な品種があり、その苦味はフラボノイド類のナリンギンという成分によります。

(1)免疫抑制剤とグレープフルーツの相互作用とは?

CYPという薬物を代謝する酵素は肝臓に多く発現していますが、そのうちの3A4という分子種は小腸の上皮細胞にも多く発現しています。
免疫抑制剤のタクロリムス(プログラフ®、グラセプター®)、シクロスポリン(ネオーラル®)は、CYPの3A4という分子種によって代謝されます。タクロリムスの場合、通常、吸収される際に小腸の上皮細胞にある3A4によってある程度の薬物量が代謝され、次いで肝臓の3A4によって更にある程度の薬物量が代謝され(※1)、その結果、服用した量の約20%が循環血中に入ります。
相互作用はグレープフルーツの成分によって、小腸上皮細胞に発現している3A4の酵素活性が阻害されることで、循環血中に入る免疫抑制剤の量が通常よりも多くなり、血中濃度が上がります。
相互作用を起こすグレープフルーツの成分は、フラノクマリン類のベルガモチン、ジヒドロベルガモチンであり、ジヒドロベルガモチンとその2量体のFC726(GF-Ⅰ-1)はCYPに対してより強い阻害作用を有し、グレープフルーツにはこれらジヒドロベルガモチンとFC726の含量が多いことがわかっています。

含量については、グレープフルーツの品種でピンクや赤色のものよりも、白色のもので多いこと、そして果皮 > 果肉 > 種 の順であることが知られています。ジュースやマーマレード、ジャムなどの加工食品にもフラノクマリン類が含まれているので摂取には注意が必要です。
この相互作用は不可逆的(※2)で、グレープフルーツの摂取をやめた後もしばらく持続し、3~7日間続くという報告もあります。
尚、吸収の際、小腸上皮細胞に発現している3A4の酵素活性を阻害することで起こる相互作用であるため、注射剤で投与された場合には、グレープフルーツを摂取してもこの相互作用は起こらないことがわかっています。
グレープフルーツのCYP3A4阻害効果には個人差があると言われており、またグレープフルーツに含まれているフラノクマリン類の存在量も一定していないため、相互作用の出方は人によって異なることがあるようです。
しかし、免疫抑制剤のように治療有効域の狭い薬剤(※3)の場合は、少しの相互作用でも問題になることがあるので注意が必要です。

(※1)服用した薬物は、全身を循環する前に肝臓を通りますが、肝臓の代謝酵素によって摂取した薬物が代謝されます。これを専門用語で初回通過効果と言います。
(※2)ある状態に変化したら、元の状態へは戻らないこと。
(※3)治療に有効な薬物の血中濃度の幅が狭く、副作用が発現する血中濃度が接近している薬剤のこと。

(2)グレープフルーツ以外で、同じ相互作用を起こす果実は?

フラノクマリン類はグレープフルーツ以外の柑橘類…ブンタン(ザボン)、オロブランコ、ダイダイ、八朔にも含まれているのでこれらの果実の摂取には注意が必要です。

ブンタン

【和名】ブンタン(ザボンとも呼ばれます)
【英名】Pomelo
【学名】Citrus x maxima
ブンタンには数多くの品種があります。
代表的なものに 河内晩柑(カワチバンカ)、晩白柚(バンペイユ)があります。

スウィーティ

【和名】オロブランコ(スウィーティーとも呼ばれます)
【英名】Oroblanco
【学名】Citrus x paradese oroblanco
グレープフルーツとブンタンの交雑種
果皮は緑色
オロブランコとスウィーティーは同品種で、アメリカ産のものをオロブランコ、イスラエル産のものをスウィーティーと呼んでいます。

ダイダイ

【和名】ダイダイ(サワーオレンジとも呼ばれます)
【英名】Bitter orange
【学名】Citrus aurantium
グレープフルーツとブンタンの交雑種
酸味と苦味が強く生食には不向き
果皮から抽出した精油はビターオレンジ油と言われます。

ハッサク

【和名】ハッサク(八朔)
【学名】Citrus hassaku
ブンタンの雑種
日本原産

温洲みかん、伊予柑、バレンシアオレンジ、シラヌヒ(デコポン)、かぼす、すだち、レモンには、相互作用を起こすフラノクマリン類の成分は含まれていないことがわかっています。

(おまけ)免疫抑制剤以外で、グレープフルーツとの相互作用を起こす可能性のある医薬品は?

免疫抑制剤とグレープフルーツの相互作用は、薬物代謝酵素のCYP3A4を阻害することで起こりますので、CYP3A4で代謝される他の薬剤でも同様の相互作用が起こる可能性があります。
医薬品の添付文書に、相互作用の注意が記載されている一例をあげますと、
・血圧の薬…アテレック®、コニール®、ニバジール®、アムロジン®、アダラート®
・脂質異常症の薬…リピトール®、リポバス®
・偏頭痛の薬…レルパックス®
・てんかんの薬…テグレトール®
これらは一例で他にも数々あります。

次回は、免疫抑制剤との相互作用③として、抗生物質についてお話したいと思います。