免疫抑制剤は、決められた時間に決められた量を確実に服用し続けることが大切です。なぜ、決められた時間に決められた量を飲み続けなければならないのかについて、その理由や決められた時間に服用できないときの対応、免疫抑制剤と食事の関係について、腎移植フォローセンター 余丁町クリニックの堀内淳子先生に解説していただきます。

決められた時間に決まった量を服用しなければならない理由

適切な免疫状態を維持するためには、体内の薬の量を一定にしておく必要があります。
同じ量の薬を等間隔で繰り返し服用していると、やがて一定の血中濃度を推移するようになります。
この状態を定常状態と言い、安定した薬の効果を得ることができます。

ところが、決められた服用ができず(忘れた、できなかった、しなかったなど)、一旦定常状態がくずれてしまうと、もう一度定常状態にするためにはしばらく時間がかかり、その間の血中濃度は不安定になります。重要な点は、次の服用をちゃんとしても、すぐには定常状態にならないということです。
ずーっと飲んでいるのだから、少しくらい飲み忘れても・・・、次にちゃんと飲めば大丈夫でしょ!?、これは危ないことなのです。
うっかり忘れてしまった時は、気づいた時点ですぐに服用しましょう。(薬の種類によって対応が異なる場合もありますので、病院から指示がある場合にはその指示に従いましょう)
1回の服用間隔ごとに、決められた服用量を守ることが定常状態をくずさないポイントになります。

決められた時間に飲めない時の対応

決められた時間に飲めないことがあるのは、1回だけですか?それとも結構回数が多いですか?
結構回数が多い場合は、お薬の服用時間がその方の生活サイクルに適していない可能性があります。
入院中に指導を受け習慣にした服用時間でも、例えば仕事に復帰してからはその服用時間が適切ではない場合もあります。心当たりがあるようでしたら、どうぞ医師、薬剤師にご相談ください。大事なことは、無理なく等間隔で服用できる時間を設定することです。

決められた時間に飲めないのは、ある用事のための1回だけという場合は、個別に対応を考えるのがよいので、どうぞご相談ください。(旅行に行く、胃内視鏡や大腸内視鏡の検査を受ける、仕事上の理由、など)

免疫抑制剤の服用と食事の時間について

タクロリムス(グラセプター®、プログラフ®)、シクロスポリン(ネオーラル®)の吸収は、食事のタイミングにより影響を受けることが確認されており、空腹時および食前の服用に比べて食後の服用では低くなります。
安定した血中濃度を維持するために、いつも一定のタイミングで服用を続けることがとても大切です。
(一般的には食後の服用が多いので、その場合はいつも食後に服用します。ただし食前に服用している人はいつも食前に服用するようにして下さい。)
食事の時間を規則正しくすることが大切になります。しかしお仕事の都合などによって不規則になってしまった場合のお薬の服用については、決められた服用時間を守ることを優先に考えて下さい。(その1回だけは、食後の服用が食前の服用になってしまってもしかたがないと考えます。)

免疫抑制剤の服用についていくつか書きましたが、免疫抑制剤の特徴で付け加えて大事な点として、治療有効域が狭いということです。
図をご覧下さい。血中濃度が高すぎても、低すぎても重大な合併症を引き起こす原因になる可能性があります。
治療有効域内で定常状態をつくり、その血中濃度を維持し続けることが、大切な腎臓を長く保つのに非常に重要なことになります。

血中濃度推移

「服用時間のズレは何時間までなら問題ないですか?」「服用時間のズレは何回位までなら影響は出ませんか?」などの質問をお受けすることがありますが、明確な境界はありません。逆にその回答を聞いてズルズルと服用が守られなくなることはとても危険なことです。
腎移植後の服用は、ある種長く続く戦いとも言えます。それをなるべく苦労なく続けていくために、24時間あるいは12時間の等間隔で無理なく継続できる服用時間を定め、それをきっちり守る習慣をつけることが最良の方策だと思います。