頂いた命を大切に
日常の服薬や、血圧、体重等の記録はどのような方法で行っていますか。
林さん:
薬は飲み忘れがないよう、朝、夜ともに10:30に携帯電話のアラームをセットしています。薬の包装の裏には日付を入れています。お酒を飲んだ時などに、服薬したかどうかを忘れてしまうので、事前に日付を書いておくのです。そうすると、翌日に薬の殻を見て、間違いなく飲んだことが分かりますからね。せっかく頂いた命を大事にしなければと思っています。それから、血圧は時々、体重は毎日、入浴前に計測しています。
北田先生:
移植後、薬を飲む習慣が身に付いてきて、無意識に服薬するようになってくると、本当に飲んだのかが分からなくなることもあると思うので、薬の包装に日付を入れておくというのはいいアイデアですね。
ご主人の移植後、ご家族の生活も変わりましたか。
奥様:
移植前は、食事面、体調面において、心配が絶えない毎日を送っていましたが、移植後は長男の部活の野球応援で県内、県外によく行き、泊まったり、家族で遊びに行く機会も多くなりました。
移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。
林さん:
今後の夢は、定年まで働いて、その後は旅行やスポーツを楽しみたいです。3人の子どもはもう独立しているので、子どもたちのところにも行きたいです。それと将来、何らかの形で腎移植の啓発活動などができたらと思っています。
感謝とメッセージ
北田先生や移植チームのスタッフへお伝えしたいことはありますか。
林さん:
手術の際には、北田先生や、九州大学病院の移植チームの方々から、いろいろなお話を聞かせていただいたのですが、とても分かりやすかったです。また、先生が、「安心して我々に任せてください。」と自信を持って言ってくださったことが、とても心強く、信頼してお任せすることができました。心から感謝しています。
現在は、北田先生にはなかなかお会いできないので、先生も参加される患者会(あかつき会)には率先して行こうと思っています。
北田先生:
私は、現在主に新患外来を担当しているため、元気な患者さんにはなかなかお会いする機会がないんです。皆さんにお会いできるあかつき会には、毎回参加しています。
ドナーの方への思いを教えてください。
林さん:
ドナーの方のおかげで、今の自分があります。普通の生活ができることの喜びを噛み締めながら生活しています。毎朝、亡き父、岳父、ドナーの方に手を合わせてから、出勤しています。心から感謝をしています。
現在、献腎移植を待っている方や献腎登録を検討している方へメッセージをお願いします。
林さん:
移植によって、週3回の透析から解放され、水分制限や食事制限が無くなり、体のかゆみ、むくみ、高血圧などの合併症が解消されます。別世界に来たような、生まれ変わったような生活になります。移植を検討されている方は、ぜひ一歩前に出て、あまり難しく考えずに、前向きに考えてください。移植後の生活はとても素晴らしいものです。
長期に透析を続けることのリスクについて、患者さんに知っていただくにはどうしたらいいのでしょうか。
北田先生:
まずは、私たち医師がきちんとした説明をすること。そして、医師と実際に移植をされた林さんのような方が、一緒に話をするのが良いと思います。医師だけがお話ししても、良いことしか言っていないのではないかと思われてしまうかもしれませんので。
また、「移植は考えているけれど、どうしたらいいのか分からない」という患者さんの声をよく聞きます。周囲に気遣い、なかなか相談ができずにいる患者さんもいらっしゃると思います。
林さん:
患者さんが透析病院の先生に気を使って、本音を話せないということはよくあると思います。
北田先生:
現在の移植医療は昔に比べるとはるかに良くなっていますので、「移植をしてもすぐに移植腎が駄目になる」ということは、ほとんどありません。そのような以前とは大きく変わった移植医療の現状を広く理解いただきたいと思います。
奥様からも、現在移植を希望されている方、移植を待っている方へメッセージをいただけますか。
奥様:
主人は移植を受けて、大きく人生が変わったと思います。透析中は、仕事が終わってから透析に行っていましたので、子どもとの触れ合いの時間がすごく少なくなっていましたが、移植後は、その点も大きく変わり、家族皆で一緒に過ごすことができるようになりました。
最後に、先生からも、献腎移植の希望登録を検討している人などに対して、メッセージをお願いします。
北田先生:
ご存知の通り、現在日本では生体腎移植がほとんどで、献腎移植はとても少ない状況です。当院では、昨年(2013年)104例の腎移植手術を行いましたが、そのうち、献腎移植は3例でした。今後、献腎移植が劇的に増えることはなかなか難しいと思われます。親族に提供希望者がおられる場合、生体腎移植もひとつの選択肢としてもらえればと思います。
そして、それ以前の問題として、移植という治療選択肢があることを知らない方もいらっしゃると思います。そのような方のためにも、林さんのような移植をご経験された方が、元気な姿を周りの人に見せていただきたいと思います。現在、腎不全で苦しんでいらっしゃる人たちに、「移植という選択肢もある」ということを知らせてあげてほしいのです。実際に移植を経験された方からのお話がきっかけとなって、我々のところへ連絡をしてこられる方、そして実際に移植を受けられる方がたくさんおられるんですよ。
林さんには、まずはご自身の人生を楽しんでいただき、第二の仕事として、移植の啓発にも力を貸していただきたいと思います。