世の中への恩返し

移植後の日常生活では、移植腎のために特にどのようなことに気を付けて生活をしていますか。

吉田さん
透析を受けていたころから、アルコールはほとんど飲んでいませんし、移植後は、刺し身やレバーなどの生ものは一切食べていません。それと、睡眠時間はたっぷりと確保しています。毎日、夜の9時半ごろには寝て、朝の6時ごろには起きるようにしています。

日常の服薬や、血圧、体重等の記録はどのような方法で行っていますか。

薬

吉田さん
服薬に関しては、夜、薬を飲んだら、必ず次の日の薬の準備をし、食卓の目立つところに置いています。体重はお風呂の後に必ず量りますね。血圧はときどき測る程度です。

移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。

吉田さん
早朝の体操を、30分かけてじっくり行っています。柔軟体操や、腹筋・腕などのエクササイズですね。手術後は少しやせてしまったのですが、現在は以前の体重に戻すことができ、それを維持することができています。
今後は、透析をしていた十数年のブランクを取り戻すくらいに、内容の濃い人生を送りたいと思っています。まずは、友達と旅行に行きたいですね。実は既に来年の旅行は決まっていて、熊本に行く予定なのです。それから、患者会にも参加してみたいと思っています。
また、我情我欲から抜け出すことを日々行っていきたいと考えています。少しでも人のために頑張れたら、ということですね。まだまだ頑張って、少しでも世の中に恩返しできるようになりたいなと思っています。

現在もお仕事は続けていらっしゃるのですか。

吉田さん
はい。引き続きラーメン店をやっています。店を開けるのはお昼時だけなので、月曜の定休日以外は、朝8時過ぎには家を出て、午後の3時か4時くらいには店を閉めます。調理は私一人でやっており、調理補助とホールのスタッフと一緒に働いています。


充実した日々


ラーメン店だと、塩分制限などが大変ですよね。

渋谷先生
調理をしていると、味見をしなければならないとは思いますが、ラーメンのスープは、全部飲んだらだめですよ(笑)。

感謝と祈り

渋谷先生へお伝えしたいことはありますか。

吉田さん
先生には全てをお任せして、順調な回復をさせていただいたことに、心より感謝をしております。

提供ドナーの方への思いを教えてください。

吉田さん
「亡くなられたご主人様の腎臓を頂いたので、これからもご主人様とともに頑張っていきます」と、毎朝、ごはんとお茶をお供えして冥福をお祈りしています。1日も欠かしたことはありません。
また、私自身も、「仮に自分の身に何かあれば、すべて提供します」という気持ちで、意思表示カードを持ち歩いています。体は所詮借り物ですので、焼かれたら灰になりますからね。病気になる前は、死後の臓器提供には抵抗がありましたが、自分が病気になって移植手術を受け、全ての価値観が変わりました。今は、臓器提供意思表示を推進していくための啓発活動が、とても必要だと考えています。その一環として、自らの腎移植の経験を綴ったブログも始めました。仕事や介護の合間にやっているので、なかなか更新できていないのですが(笑)

現在、献腎移植を待っている方や、献腎移植の希望登録を検討している方へメッセージをお願いします。

吉田さん
必ずやその機会が来ると信じて、その時まで体調を維持され、まずは移植希望の登録を行ってください。何事も行動をしないと、結果は出てこないと思います。

レシピエント移植コーディネーターの河野さんからも、メッセージをお願いします。

河野コーディネーター

河野コーディネーター
献腎移植を受けられた方は、透析を受けていたころの自己管理の習慣が身に付いていらっしゃるからか、吉田さんのように、移植後の自己管理がしっかりとできている方が多い印象です。移植後の患者さんの服薬状況のアンケートを見ても、献腎移植を受けた方のほとんどが、薬を飲み忘れた経験が無いという結果が出ていました。
また、吉田さんは頂いた腎臓のことを、「じんちゃん」と呼んで、とても大切にしておられ、ドナーの方を大事に思っていらっしゃいますが、献腎移植・生体腎移植に関わらず、移植を受けた後は自己管理をしっかりと行い、提供してくださったドナーの方への感謝の気持ちを忘れずに、移植腎を長く大切にしていただきたいと思います。

最後に、先生からも、献腎移植を希望されている方にメッセージをお願いします。

渋谷先生
臓器移植医療の本来のあるべき姿は、献腎移植だと思いますが、やはり日本においては、提供数がとても少ないという問題があります。我々もできるだけ、移植医療への理解を広め、臓器提供を増やすための啓発活動を行っていきたいと考えておりますので、患者さんも、ぜひ献腎移植希望の登録をしていただきたいと思います。そうすることで、さらにニーズが高まり、臓器提供も増えるという流れに進んで行くのではないかと思います。そして、吉田さんのように献腎移植を受けて元気になられた方が、「移植を受けてこんなに元気になりました」ということをどんどん発信していただきたいと思います。実際に移植を経験された方の姿、言葉が、臓器提供の増加につながっていくと思います。


吉田さんと渋谷先生と河野さん