皆さんは、「移植コーディネーター(ドナーコーディネーター)」という仕事をご存知でしょうか?
(社)日本臓器移植ネットワークには、全国の支部を活動拠点とする専任の移植コーディネーター(ドナーコーディネーター)がおり、移植医療に関する普及啓発活動、移植希望者の登録・データの整備、そして、救急病院などの臓器提供者発生施設からドナー情報を受け、移植希望者への移植が終了するまでの一連の実務を行っています。(社)日本臓器移植ネットワークHPより

今回「MediPress腎移植」では、社団法人日本臓器移植ネットワーク 中日本支部 主席コーディネーターの朝居朋子さんに、皆さんから寄せられる献腎移植に関する疑問に、実際の現場でのお話も交えながら解説いただきき、シリーズでお届けしていきたいと思います。

~シリーズ 臓器移植の現場から(掲載内容)~
第1回 献腎移植の登録方法、移植希望者の実際
第2回 献腎移植希望登録者として気を付けておくべきこと
第3回 献腎移植の候補になった場合の実際の流れ
第4回 ドナーのご家族の思い
第5回 日本において移植医療が発展するために必要なこと

朝居さんは、2012年4月に毎日新聞社より発売された医療エッセイ『 いのちに寄り添って  臓器移植の現場から 』 の著者でもいらっしゃいます。
14年間の移植コーディネーターとしてのご経験をもとに、様々な視点から移植医療に関するお話を頂きます。

第1回目の今回は、「献腎移植の登録をしたいのですが、どうしたらいいですか?」という疑問に、献腎移植の登録、更新方法や待機期間の実際、献腎移植候補者を選ぶ基準なども含めご解説いただきました。

臓器移植の現場から 第1回◆
「献腎移植の登録はどのようにしたらいいのでしょうか?」 ~献腎移植の登録方法と実際~ 

みなさんは「献腎移植(けんじんいしょく)」という言葉を聞いたことがありますか?

末期腎不全の治療法として、「腎臓移植」があることはご存じだと思います。腎臓移植は、臓器提供者(ドナー)の種別によって、2つに分かれています。1つは「生体腎移植」、もう1つは「献腎移植」です。「献腎移植」は以前は、「生体腎移植」と対比させて「死体腎移植」と呼ばれていましたが、「死体」という言葉のイメージに配慮したのと、ドナーから善意(無償)で提供されるという意味で、現在では「献腎移植」と呼ばれています。「献血」の「献」と同じ字、といえば、なじみが出てくるのではないでしょうか?

さて、献腎移植を希望する場合、どうしたらいいのでしょうか?対象となる方は、末期腎不全で透析を受けている方ですが、一定の基準を満たし(例 20歳以上でeGFR 15mL/min/1.73㎡未満など)、申請→承認の手続きを踏めば、透析導入前の登録(先行的献腎移植の登録)も受け付けられています。

1.新規登録手続きについて

登録流れ

献腎移植をあっせんするのは、社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下、移植ネットワーク)です。献腎移植登録も、移植ネットワークで受け付けています。一般的な手順は左記の通りです。(図1)地域によって異なることがあります。
まず、患者さんが、透析施設の主治医に「献腎移植を受けたい」ことを伝えます。そうすれば、主治医の先生が、適切な献腎移植施設を紹介してくれるでしょう。もし、十分な情報が得られないときは、移植ネットワークのHPで移植施設を探して、直接問い合わせてみるのも1つの方法です。また、地域の腎友会に相談してみるのも、患者さんの生の声が聞けて良いと思います。透析患者さんの中に、腎友会の担当の方がいるかもしれませんし、全腎協のHPからも探すことができます。

登録手続き

移植施設を決めたら、透析の主治医の紹介状、健康保険証、障害者手帳等を持って受診します。透析の主治医の紹介状には、医学的に献腎移植を受ける適応があるかどうかがわかるように、透析歴、HBs抗原などの感染症の検査結果、現在のからだの状態、合併症、既往歴などを書いてもらうといいでしょう。
(図2)に、新規登録用紙の医学情報を書く欄を掲載します。ここに書かれた項目を参考に、透析の主治医に紹介状を書いてもらうと良いと思います。
具体的な登録手続きは、都道府県によって異なります。随時登録できるところもあれば、時期を限って登録を受け付けているところもあります。また、組織適合性検査料や新規登録料の補助がある都道府県もありますので、詳細は移植施設に確認してください。
なお、新規登録には、移植ネットワークへの登録料3万円(2012年4月現在。生活保護世帯・非課税世帯者は証明書の提出を以って免除)と組織適合性検査料(検査施設により異なる。補助金がある自治体もある)が必要です。

2.新規登録後の更新手続きについて

いったん登録した後も、1年に1回、更新が行われます。登録更新のお知らせは、毎年 1月頃登録者本人に郵送されてきます。移植の登録を続ける意思があるのかどうか、連絡先や透析施設など現在登録されている内容の確認などが行われます。また、登録更新には、更新料5,000円が必要です(2012年4月現在。生活保護世帯・非課税世帯者は証明書の提出を以って免除)。
更新は、郵送による更新意思の確認と、移植候補に挙がった際のリンパ球交叉試験(クロスマッチ)用の保存血清の更新によって手続きが完了します。地域によっては、更新時に移植施設の受診が必須の地域もあります。たとえ、受診が必須でなくても1年に1回は移植外来を受診されるといいと思います。移植の先生が献腎移植の適応評価をする機会にもなりますし、患者さんにとっては最新情報を入手したり、普段疑問に思っていることを確認できる機会にもなります。
登録後に、転居した場合、移植施設を最寄りの病院に変更することもできます。その場合、登録そのものはリセットされないので、待機期間はそのまま移行されます。

3.献腎移植希望者の実態

登録者データ

2012年7月2日現在、全国で12,185名が登録しています。全国の透析患者数が30万4,592人(2011年12月末)ですから、透析患者さんの約4%の方が登録していることになります。登録者の年代や待機期間は(図3、4)の通りです。
献腎移植を受けるまでの平均待機日数は、16歳以上では約15年(最短7年~最長30年)、16歳未満では優先的に移植が受けられる制度になっているため約1年半です。

登録後も、いつか来る移植の機会に備えて、体調管理は重要です。透析の合併症の進行は止められないですし、軽く考えていたことが、献腎移植の禁忌になることもあります。実際に、移植の候補に挙がって連絡をしたときに、「風邪気味」「熱がある」等で辞退する方もいらっしゃいます。現在の献腎数では、移植手術までは短くても7年は待たなくてはいけないので、登録したことそのものも忘れてしまう方もいらっしゃいますが、自分自身の意識づけのために毎年の更新を行い、移植ネットワークからの案内に同封されている、『ニュースレター』で移植に関する情報も積極的に確認してみましょう。

4.献腎移植候補者を選ぶ基準について

まず、①ABO式血液型の一致及び適合(一致が優先)、②リンパ球交叉試験(クロスマッチ)陰性が条件です。
先の条件を満たす候補者の中で、下記の通りポイント付けをして順位を決めます。
① 搬送時間:献腎ドナーの入院施設と移植施設が同一都道府県内の場合、ポイントが高くなります(同一都道府県内12点、同一ブロック内6点)。
② HLA型の適合数:ドナーと移植者の適合していない数が少ない方が、ポイントが高くなります。
③ 待機日数:移植ネットワークに登録している期間が長いほどポイントが高くなります(注 透析期間ではありません)。11年目までは1点/1年、それ以降はなだらかに増加する式で計算されます。
④ 未成年者が医学的見地から優先的に移植できるよう、16歳未満には14点、16~19歳には12点が加算されます。
①~④の合計点が多い順に、順位が決められます。この基準によると、献腎の8割は同一都道府県内で移植されています。
この基準は、厚生労働省で作成され、あっせんの結果などから必要があれば見直されます。上記の基準は、2011年3月15日から適用されています。

献腎移植の登録について、ご理解いただけましたでしょうか?わからないことがあれば、移植ネットワークのHPにも移植に関してのQ&Aがありますので、ご確認ください。
なお、腎臓と他の臓器の同時移植の登録もあります。現在、肝腎同時、膵腎同時移植登録が可能ですので、詳細は主治医の先生にご相談ください。