ペットは心の癒しを与える人生の貴重なパートナーです。そうかと言って免疫抑制療法を受けている腎移植患者さんが知識もなく無制限に今までと同じようにペットを飼っていいものか、同じように接していいものかは問題があります。そこで誤解がないように、今回は腎移植患者さんとペットについて正確な情報を提供したいと思います。

移植後急性期および拒絶反応治療後
移植を受けたばかりの急性期(通常3か月)は免疫抑制薬の量が多く、また拒絶反応時には大量のステロイドが投与されるため、どちらも特に感染を起こしやすい時期です。このような時期にペットに過剰に接触するのは問題があります。

免疫抑制維持療法後
通常腎移植後3~6カ月経過すると、拒絶反応がなければ、免疫抑制薬は維持量になり、特異的免疫学的寛容と言って、もらった腎臓は拒絶しませんが、細菌やウイルスに対しては防御できる力が備わってきます。このような時期以降では、清潔に気を付けることは大事ですが、注意事項を守れば、ペットと接することができます。

それではペットの種類ごとの感染症について説明しましょう。
イヌとネコ
1)パスツレラ症
イヌの75%、ネコの100%はパスツレラ菌が口の中に常にいるため、イヌやネコに咬まれたり、引っ掻かれるとパスツレラ菌に感染して皮膚が化膿することがあります。また鼻や口から感染し、せきなどかぜに似た症状が出て、副鼻腔炎や気管支炎になることもあります。重症になると肺炎や髄膜炎を起こし死亡した例も報告されています。
2)ネコひっかき病
バルトネラ属の細菌によって引き起こされるリンパ節炎を主体とした感染症です。ネコにひっかかれた傷が10日後に赤く腫れます。典型的には、手の傷であれば腋窩リンパ節が、足の傷なら鼠径リンパ節が腫脹します。しかしながら、顔に傷がなくとも、頚部リンパ節の腫脹がみられることも稀ではありません。腫脹したリンパ節は多くの場合痛みを伴い、体表に近いリンパ節腫張では皮膚の発赤や熱感を伴うこともあります。
3)イヌ・ネコ回虫症
イヌやネコのフンに含まれる虫卵を口に入れることで感染します。人の体内に入った回虫が体内を移動して肺や肝臓、目に入ることでさまざまな障害を引き起こします。肺に入ると発熱、ぜんそく、肺炎など、目に入ると視力障害や視野障害が起こります。
4)トキソプラズマ症
ネコのフンから感染します。加熱が不十分な豚肉から感染することもあります。抗体をもたない妊婦が初めて感染すると、まれに胎児に影響し、死産や流産の原因になります。
オウム、インコ
5)オウム病
羽毛や乾燥したフンなどを吸い込んだり、口移しでエサを与えたりして感染します。インフルエンザに似た症状が特徴で、1~3週間の潜伏期間の後突然、高熱(39℃以上)、せき、全身の倦怠感、頭痛や筋肉痛がみられます。重症になると血痰(けったん)や呼吸困難感(チアノーゼ)、髄膜炎を起こして死亡することもあります。
ハト
6) クリプトコッカス症
土の中にいるクリプトコッカス菌がハトのフン中で増殖します。空気中にまきあがったハトの乾燥した粉末状のフンを吸収するとそれが肺に侵入して肺炎を起こします。重症化すると脳に達して脳炎や脳膿瘍を起こし、死亡に至る例もあります。
ミドリガメ
7) サルモネラ腸炎
ミドリガメの排泄物から感染し、発熱を伴う激しい下痢、腹痛を起こす細菌性腸炎を起こします。イヌやネコ、爬虫(はちゅう)類、鳥、ハムスター、ウサギ、サルでも起こします。

ハムスター
8) 白癬症
白癬(水虫と同じ菌)による皮膚病にかかっているハムスターやイヌ、ネコと接触することで感染し、発疹、かゆみ、化膿などを起こします。


治療と予防
ほとんどの感染症は抗生剤が効くため、早期に診断、治療すれば大事にいたることはありませんが、重症化すると生命に危険を及ぼすこともないわけではありません。

腎移植患者さんがペットとつきあうには、日頃注意することがあります。以下の注意事項を十分に理解しておきましょう。
・ペットに触ったり、手で食事を与えたり、土をいじったり、フンを処理した後は石けんで手を洗う。
・ペットとキスしたり、過剰な口なめはさせない。
・ペットに食べ物を自分のはしで食べさせたり、口移ししない。
・ペットと人の食器を一緒に洗わない。
・ペットと同じふとんで寝ない。
・ペットと一緒にお風呂に入らない。
・ネコやイヌの爪は短く切っておく。
・ハトの多くいる場所は避ける。
・食事中は鳥を室内に放さない。
・ペットの体や飼育小屋は常に清潔に保ち、フンの始末はこまめに行う。
・鳥かごの掃除はマスクで鼻までおおってする。
・ペットの定期検診を動物病院で受ける。
・野生動物は飼育しない。


腎移植を受けたからと言って、ペットを遠ざける必要はありません。注意事項を守って、ペットとともに楽しく過ごしてください。