腎移植後、移植腎を長く持たせるためには、合併症の予防が重要です。大阪医科大学腎泌尿器外科・血液浄化センターの平野先生に、腎移植後の合併症とその予防についてご解説いただきます。第1回目の今回は、腎移植後の高血圧についてです。
腎移植後の血圧について
腎移植後には高血圧も完全に良くなると考えておられる方が多いと思いますが、実際は違います。さまざまな報告によると、腎移植後には約 40~60%の方に腎移植後高血圧が認められるといわれています。
腎不全の状態においては、塩分、水分の排泄障害から体液量が多くなりやすくなるため、容量依存性の高血圧をきたします。さらに、腎臓の血圧調節機能をつかさどるホルモンや神経がうまく働かなくなったりして高血圧が悪化します。
腎不全の患者さんの高血圧は、腎不全の結果でもあり原因でもあるのです。たしかに、腎移植により腎機能が改善すると体液量過剰の状態は解消され、血圧調節機構も正常となり高血圧が改善することはよくあります。
腎移植後に使用する免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬)には、高血圧の副作用があります。また、生活習慣が高血圧を招くこともあります。腎移植後の診療ガイドラインでは、「収縮期血圧を130mmHg未満,拡張期血圧を80mmHg未満に維持すること」とされています。これに当てはまらない方は、まずは塩分制限をはじめとした生活習慣の改善が必要です。詳しくはあとの項でお話しします。それでも改善しない場合には降圧剤などによる治療が必要です。特に長期の腎不全の経過中に高血圧から動脈硬化が進んでしまっている場合は、厳重な管理が必要となります。
移植腎の長期生着のための高血圧対策
腎移植後であっても高血圧は心疾患、動脈硬化の危険因子として重要です。
症状がほとんどないままに、長年かかってひそかに血管を蝕んでいくため「サイレント・キラー」、すなわち沈黙の殺人者とも呼ばれるほどです。腎移植レシピエントの生命予後に影響を与える心臓病や脳卒中の原因ともなります。血圧そのものは死亡の原因にはなりませんが、血圧が高いことによって起こるさまざまな合併症によって寿命を縮めてしまうのです。
高血圧が長期間持続すると、移植された腎臓の動脈硬化も進展し、腎硬化症と言われる状態から腎機能が悪化、最終的には移植腎機能廃絶となります。
降圧剤を服用する場合、基本的には、降圧剤の種類は特定されませんが、免疫抑制剤との飲み合わせを考慮に入れた上で選択することが大切です。また、糖尿病があったり、外来受診時に尿中蛋白量が多い方は、腎保護作用がある、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)や、アンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)といった降圧剤が第一選択薬として推奨されています。
降圧剤で下がりにくい高血圧の場合、腎動脈が狭窄して起こる二次性高血圧が原因になっていることもあり、超音波検査でわかることもあります。こういった場合、先程述べた2種類の降圧剤(ACE-I、ARB)などを服用することにより腎機能が悪化することもあるので注意が必要です。
次回は薬以外で血圧を下げる工夫について述べたいと思います。