今回は腎移植あるいは腎提供が可能な年齢について述べたいと思います。

わが国は、世界でも類をみないような急速な人口の高齢化に突入しております。平成15年9月には65歳以上の人口は総人口の19%でしたが、27年には26%と約1/4になるとさえ言われております(参考文献1)(表1)。

高齢者人口の推移

実際、寿命もかなり長くなっており、女性で約86歳、男性でも約80歳と、還暦を迎えてもまだまだ20年以上生きていけるということになります(表2)。

平均寿命の推移

仮に60歳に達した方の平均余命は、平成25年の統計では男性23.14年、女性28.47年(参考文献2)(表3)、残された人生を楽しく、快適に過ごしたいという方がほとんどだと思います。ましてや、仕事で忙しい毎日を過ごされてきた方は、定年後、ようやく自由な時間が持て、ご夫婦で旅行や、趣味に十分な時間を割きたいとお考えだと思います。

主な年齢の平均余命

しかし、加齢にともない、病気を患う方の割合も増加し、慢性腎臓病(CKD)を患う方も例外ではありません。高度CKDと診断され、腎代替療法が必要とされた方の多くは、人生が残り少ないからと、透析療法を選択される方が多いと思います。実際に、透析導入者の多くが60歳以上であり、70歳以上の高齢者が最多となっております(参考文献3)(図1)。

透析導入患者の年齢

さて、本当に高齢であれば腎代替療法として透析を選ぶことしかできないのでしょうか。腎移植を選ぶことはできないのでしょうか。60歳でも無理。70歳なんてとんでもないと決めつけていらっしゃるのではないでしょうか。しかし、最近は60歳代、さらに70歳を超えた方でも腎移植を希望されて受診される方がいらっしゃいます。移植学会の倫理指針は、一応の目安は、腎移植あるいは腎提供の目安は70歳とされておりますが(参考文献4)、私たちの考えは年齢ではなく、体年齢であると思っております。つまり70歳を超えても条件を満たせば提供、移植が可能であると判断します。

その条件とは、以下をご参照下さい。多くは一般の方と変わるところはありませんが、まず、
【腎移植希望者】であれば

1. 現在健康であること
① 癌、悪性腫瘍(肺、消化器、泌尿器、血液、その他)がないこと、あるいは完治していること。
② 感染症既往がないこと、あるいは完治していること。
③ 心血管系の病気がないこと、あるいは完治していること。
④ 脳血管障害がないこと、あるいは完治していること。
⑤ 移植する部位(血管)があること。
2. 移植の意思が第三者から見ても問題ないこと
3. 将来的に認知症となった場合に免疫抑制薬の服用のサポートができる体制となっていること

となっております。

実は3.は現実的に重要な問題であり、移植腎が機能している限り服用が必須である免疫抑制薬の管理は非常に大切です。これがおろそかになると、当然拒絶反応により移植腎を失います。本人が認知症となっても、ご家族あるいは施設などが薬剤を管理してくれるサポート体制が確実であれば、問題ありません。もし移植を考えているのでしたら、そこまで遠くない将来の設計まで行っておいてください。

また、【提供を考えているという方】であれば以下の通りです。

1. 現在健康であること
① 癌、悪性腫瘍(肺、消化器、泌尿器、血液、その他)がないこと、あるいは完治していること。
② 感染症既往がないこと、あるいは完治していること。
③ 心血管系の病気がないこと、あるいは完治していること。
④ 脳血管障害がないこと、あるいは完治していること。
⑤ 腎機能が十分にあること。具体的には理想で糸球体濾過率80%、割り引いても70%は必要です。
2. 提供の意思が第三者から見ても問題ないこと。これも上でも触れましたが、認知症や、精神疾患をわずらっている場合には正しい判断が下せないと思われますので、好ましくありません。

以上、これまで触れたこととそれほど変わりはありませんが、腎移植の条件について改めて述べさせていただきました。70歳を超えても、 元気 ・・ であれば、是非腎移植を考えて腎移植施設、あるいは腎移植に理解のある腎臓内科医にご相談に行かれてみてはいかがでしょうか。

次回は、美味しいけれど、知らないと危ないチーズの話です。お楽しみに。

参考文献
1.総務省統計局ホームページ
2.厚生労働省ホームページ
3.図説 わが国の慢性透析療法の現況 一般社団法人 日本透析医学会ホームページ
4.生体腎移植のドナーガイドライン 日本移植学会ホームページ