腎移植後女性の出産
健康女性の妊娠や出産の際にも、様々な合併症が母体と児に起こります。腎移植後女性の場合は、それに加えて母体には妊娠高血圧、蛋白尿、移植腎機能低下、移植腎水腎症、尿路感染症などの合併症が起こりやすく、胎児には子宮内胎児発育遅延などが起こりやすいです。そのため、腎移植後女性の妊娠や出産に精通した合併症妊娠を専門とする産婦人科医に、妊娠が判明したらすぐに管理をお願いすることが多いです。
妊娠が判明したら、外来通院の頻度を増やして免疫抑制薬の濃度を調整し、血圧や体重の管理と食事管理を行います。
一般に、妊娠中は胎児という母体にとっての異物と共存するため、母体の免疫は抑えられていますが、それとともに妊娠中は体液量増加などにより免疫抑制薬の濃度が変動することも知られています。妊娠中も移植医による厳重な管理が必要です。出産後には、免疫抑制薬など変更や中止した薬剤を、妊娠判明前の薬剤に戻します。
妊娠中には膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症の頻度が多く、重症化することもあるため、非妊娠時と比較して、厳格に尿検査と治療を行います。妊娠週数が進むと、大きくなった妊娠子宮が移植尿管を圧迫して、移植腎の水腎症を来すことがあります。この場合は腎機能低下や急性腎盂腎炎を来しやすく、分娩まで一時的に尿管カテーテルを留置することがあります。
胎児の合併症として、子宮内胎児発育遅延が知られています。低出生体重児などの場合は、出生後にNICU(新生児特定集中治療室)での管理が必要なことがあります。
経膣分娩と帝王切開のどちらを選択するかは、母体と胎児の状況から産婦人科医が判断します。経腟分娩が可能なケースが多いですが、母体や胎児の合併症のため、満期まで妊娠を継続できない場合などに、帝王切開を選択することがあります。移植腎や尿管が、大きくなった妊娠子宮のすぐ隣にあるため、緊急帝王切開の場合には手術中に損傷しないように移植外科医が応援することもあります。
免疫抑制薬などを内服しているため、出産後の授乳は基本的に勧められていません。ただし、実際には母乳中の免疫抑制薬濃度は低いため、胎児への影響は低いのではと考えられています。小児科や新生児科の先生により方針が異なることもありますので、担当の先生に相談してください。
今日では、多くの腎移植後女性が挙児希望をかなえています。主治医の先生と相談して、計画的に妊娠・出産を検討してください。