前回は拒絶反応、特にTリンパ球による拒絶反応の仕組みについて述べました。今回はもう一つの拒絶反応である抗体が原因となる拒絶反応について述べたいと思います。

移植片を拒絶、すなわち“自分の一部ではない”とTリンパ球が認識し、攻撃をするTリンパ球性の拒絶反応が拒絶反応の主体であることはこれまでも述べたとおりです。

前回、前々回でも触れたHLA(ヒト白血球抗原)が自分(自己)を他人と認識するのに必要であることをもう一度思い出して下さい。自分の中に侵入した“自分の一部ではない”エイリアン(細菌、ウィルス、真菌、他の蛋白質など、移植片もそうですね)の排除にはTリンパ球が関与する経路の他に、もう一つの主要なリンパ球であるBリンパ球(このBという意味は血液型のB型とは全く関係がありません)も、重要な役割を担っています。
Bリンパ球は主に“抗体”を産生し、Bリンパ球自体ではなくBリンパ球が産生した‘抗体’をミサイルのように直接微生物に付着させ細菌を破壊したり、中和することでその毒性を弱める働きを持っております。この抗体は通常では自分を攻撃しないようになっており、しっかりとエイリアンを認識します。
移植片、腎移植では腎臓の中に豊富にある血管の表面に存在する自分とは異なるHLA抗原に付着し、ここにさらに補体が付着することにより(これも細胞を破壊する免疫担当物質です)活性化されます。補体は細胞を直接破壊する働きの他に、血液を血管内で固まらせる作用を持っており、最終的に血管が閉塞することになり、重症の場合は血流が止まり、腎臓が破壊されてしまいます。軽症でも血流の障害による腎機能障害が発生し尿の産生が障害されます。これを抗体関連性の拒絶反応と呼び、Tリンパ球性の拒絶反応とならぶ重要なもう一つの拒絶反応として、最近着目されています。
抗体は長期にわたりゆっくりと進む拒絶反応(慢性抗体関連拒絶反応)に関与していることが明らかとなっており、この克服が移植腎を長持ちさせるにはもっとも重要となります。

抗HLA抗体

腎臓の尿産生の第一の場である糸球体(細かい血管が毬のようになった部位)(1)、および、尿を調整する尿細管を栄養する微少な血管(2)に付着した抗HLA抗体を、特殊な染色方法で視たものです。
そして、ゆっくりと糸球体に変化がもたらされます。抗体がない場合はこのようには緑色に光りません。


さて、抗体には大きく分けて2つの種類があります。もともと自然に体内に存在している自然抗体と何らかの免疫反応やワクチン接種などにより産生される獲得抗体の2種類があります。
前者は以前述べました血液型抗体がこれの代表です。また後者には、HLAに対する抗体や、外来微生物、蛋白質などに対する抗体などがあります。自然抗体は、生まれながらに存在するようにプログラムされており、一方、HLA抗体は、体に他人のHLAが侵入することで感作され産生されるようになります。体に他人のHLAが侵入する代表としては、輸血、臓器移植、女性の場合は、妊娠などがあります。抗HLA抗体が産生されていることが予想される場合は、移植前の検査が重要であり、もし抗体が存在していることが移植前に分かれば、それを低下させる措置が必要となります。さらに、移植前に抗HLA抗体を有していない場合でも移植の経過中に産生されることがあり、前述の慢性の抗体関連拒絶の原因となるために、普段から十分な免疫抑制が必要となります。当然ながら怠薬をしている方はその機会を自ら増やしていることになります。

少し話が難しくなって来ましたので、次回は“腎移植前に透析は必ずしも必要ではない”という話題について述べたいと思います。