腎移植後3カ月間は外科的合併症や院内感染、免疫抑制薬の服用量も多いため潜在感染症の再燃等、さまざまな合併症が起こりやすい時期です。移植後4カ月以降の維持期になると免疫抑制薬の量は徐々に減少し、移植後6カ月以降は免疫力も回復してきますが、拒絶反応や市中感染症、悪性腫瘍、糖尿病・高血圧等の代謝性疾患など、さまざまな合併症が起こる可能性は残ります。
腎移植後の合併症には手術に関連するものや拒絶反応などがありますが、その他にも免疫抑制薬に関連するものなどがあります。移植後に特に気を付けた方がよい合併症について解説していきます。
腎移植後の感染症 ポイント
腎移植後の感染症は、予防と早期治療が大切です。
自分でできる予防策(帰宅時にはうがい・手洗いを励行するなど)を徹底し、発熱や、長く続く咳などの症状がある場合には、すぐに病院に連絡または受診しましょう。
腎移植手術の際には、移植手術前または直後から、拒絶反応を防ぐために免疫抑制療法が行なわれます。移植後は拒絶反応を起こさないために、免疫抑制薬を毎日決められた時間やタイミングで、決められた量を服用することが何よりも大切です。一方で、免疫抑制状態では、ウイルス感染症や一部の細菌、真菌による感染症にかかりやすくなることに加えて、発熱や痛み等の症状が弱く、診断や治療の遅れが重なると重症化しやすいのが特徴です。
実際に、日本における2001年以降のレシピエントの死亡原因をみると、その1位は感染症(22.3%)となっています。
特に移植後3カ月から6カ月は、もっとも感染症にかかりやすい時期です。この時期に起こりやすい感染症は、ドナーやレシピエントが持つ潜伏感染が免疫抑制薬の影響で再燃する日和見感染※です。その後、免疫抑制薬の量は徐々に減って維持量となり、免疫力も回復してきますので、移植後6カ月を過ぎるころには、感染症が起きる可能性も減ってきます。
しかし、免疫抑制薬を服用していることから、一般人もかかりやすい市中感染によって肺炎を起こしやすく、適切な治療を早期に行わなければ重症化する可能性があります。また、拒絶反応の治療や、何らかの理由で免疫抑制療法を強化した場合は、感染症が起こりやすい時期はリセットされることを念頭に置く必要があります。
感染症対策は、予防とかかってしまった場合の早期治療がとても大切です。毎日の生活の中での感染予防はもちろんのこと、定期的な検査を受け、必要な予防薬の服用や、インフルエンザウイルスや肺炎球菌等のワクチン接種を積極的に行いましょう。
※日和見感染(ひよりみかんせん):健康な人には感染症を起こさない微生物が原因菌となり発症する感染症のこと。
感染症の症状
原因菌やウイルスによって異なりますが、発熱や、慢性的に続く咳・息切れ・呼吸困難、全身倦怠感、頭痛、脱水になるような下痢などの症状が現れます。特に発熱は急性拒絶反応や感染症などさまざまな原因で起こるため、原因を特定することが重要です。
上記のような症状がある場合には、我慢をせずに、すぐに病院に連絡または受診するようにしましょう。
感染症の種類
呼吸器感染症が最も多く、その他、消化器感染症や尿路感染症、帯状疱疹や皮膚真菌症、口唇炎・口内炎などがあります。従来の免疫抑制法は主にT細胞の抑制を目的としていて、ウイルスや真菌感染を増加させていましたが、最近はABO血液型不適合腎移植や抗ドナー抗体陽性腎移植等が増加し、B細胞を含めたより広く、強い免疫抑制を行うことが多くなっていることから、原因となる病原体にもさまざまなものがあります。しかし検査技術・診断技術や治療薬の発達により、早期発見できれば、ほとんどの場合、適切な治療によって治癒が可能です。早期発見のためにも些細な症状を見逃さないようにしましょう。
感染症の予防
腎移植後の感染症予防のために、以下のポイントをおさえましょう。
■外出先から帰ったら石けんでの手洗いと、うがいをしましょう。
■バクタなどの予防薬を主治医の指示通りに服用しましょう。
■主治医に確認の上、必要なワクチンを接種しましょう。
(腎移植後の生ワクチン接種は禁忌です。接種可能なワクチンは主治医に確認しましょう。過去にインフルエンザワクチンを接種したのに罹患したことから、その後ワクチン接種をやめてしまった方がいらっしゃいました。しかし、ワクチンには感染予防に加えて重症化予防という重要な効果があります。)
■主治医の指示に従い、必要な検査を定期的に受けましょう。
■日常における感染リスクを減らしましょう。
(生ものは新鮮なものを食べる、動物系の生肉は食べない、粉塵があがるような場所には出掛けない、インフルエンザなどの流行期にはできるだけ人混みを避ける、ペットを飼う場合には清潔に気を付ける、鳥類は飼わない など)