移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第1回目は、移植腎の生着期間についてです。
Q1.移植腎はどのくらいもちますか?
移植腎が機能して透析に戻らずに生活できる年数(生着年数)には大きな関心が寄せられます。
個人個人にとっては移植腎が機能しているか、していないか、ですが、多くの人たちを調べて、何年後には何パーセントの人が透析に戻っていないか、の率を移植腎の「生着率」と言います。移植時にはもちろん100%のはずで、これがずっと続くのが理想ですが、いろいろな理由で減っていきます。
急性拒絶反応、慢性拒絶反応、ウイルス感染症、糖尿病や高血圧、高脂血症などによる腎障害など、腎機能を損なう原因は少なくありません。それらの原因により、腎臓の機能単位である「ネフロン」の数が減り、残ったネフロンにさらに負荷がかかる悪循環が始まります。しかも移植腎は1つなので、悪化が早いと言えます。
本年の移植学会のファクトブック2016に掲載された移植腎生着率は生体腎移植では5年で94.6%、10年で87.0%、15年で60.2%、献腎移植では5年で87.5%、10年で71.1%、15年で41.8%でした。世界では腎移植後生着が50年を越している人がいますし、日本でも43年を越している人がいますが、これは特別な例だと言えます。
なお、普通は移植した患者さんが亡くなると同時に移植腎も失われるので、生着もその時点で終わりますが、亡くなった時に移植腎が機能していることもあります。そこで移植腎が機能したまま患者さんが亡くなった場合には、別扱いにして生着率を計算することもあります。
また、100人の腎移植患者さんのうち、いろいろな理由で移植腎機能を失い、50人が残るまでの期間(つまり半減期で、これを平均移植腎生着期間と言います)は、米国の2009年のデータにはなりますが、生体腎移植で約14年、献腎移植で約10年という報告もあります(*1)。日本における成績はもっと良いとは思われますが、いずれにしても、免疫抑制療法の進歩で短期間の生着率は改善したものの、20年を越す長期生着には組織型の問題など、まだまだ課題が多いのです。
*1 OPTN/SRTR 2012 Annual Data Report: kidney 11 kidney