<執筆> 静岡県立総合病院 腎臓内科 伊藤 健太 先生
生体腎移植ドナーは、腎提供前に数々の検査を受け、腎提供に際し問題がなく、腎提供後も長期間にわたって腎機能や健康状態に支障がないことを確認された、言わば非常に健康な方達と言えます。腎提供後もその健康を維持するために必要な要点をお伝えします。
①移植施設に定期的に通院し続けること。
②年齢相応の健康管理に努めること。
③ドナーとレシピエント双方が元気でいること。
これらは一見当たり前の事のように感じるかもしれませんが、非常に大切です。
以下にその理由をお話しします。
① 移植施設に定期的に通院し続けること
日本の生体腎移植ドナー全体の中で、移植施設への定期通院を継続できている割合ははっきりと分かっていません。非常に限られた日本の移植施設からの報告によれば、5年以上通院できているドナーは約20~60%と報告されています 1,2)。前述の様に、ドナーは腎提供時に健康であるが故に、ついつい通院しなくなってしまう状況が考えられます。
しかし、わずかですが腎提供後に自身が末期腎不全に至ってしまうドナーもいます。それは、通院を自己中断してしまい、腎提供後10年以上の長期経過する過程で、心疾患や感染症を合併したり、糸球体腎炎などの腎疾患を新たに発症したりして、移植施設に再受診した際には手遅れであった方が代表的です。
これらは地道に定期通院を継続することで早期発見・早期治療でき、感染症に対しては一部ワクチンによる予防が可能です。健康に自信があっても、定期通院を欠かさず続けることが非常に大切です。中でも糸球体腎炎に関しては、遺伝的な素因が知られていますので、レシピエントを含む家族に糸球体腎炎の方がいる場合、早期発見のためには定期通院がより重要になると考えます。
② 年齢相応の健康管理に努めること
移植施設に定期通院することと併せて、年齢相応の健康管理、中でもがんの有無を定期的に検査することが重要です。現在、私達日本人の死因の第1位はがん(約30%)、2位は心疾患(約15%)、3位は肺炎(約9%)です。
日本人の生体腎移植ドナーの死因を調べた少数の報告においても、がんが最多で約40%を占めたと報告されています 3)。
ドナーとして腎臓を提供することで、がんの発生率が高くなるわけではありませんが、移植施設の主治医の先生と相談の上、人間ドックなども利用しながら検診を欠かさず受け、がんの早期発見・早期治療に努めていただきたいと思います。
③ ドナーとレシピエント双方が元気でいること
レシピエントにとってドナーが自分のために体調が悪くなってしまうことが一番つらいことです。同様に、ドナーにとってもレシピエントが元気に過ごしていることがとても重要です。提供した腎臓の機能が廃絶することやレシピエントが死亡することは、ドナーの鬱病やドナーの定期通院の中断の増加につながります。レシピエントが元気で過ごしていることが、ドナーの健康維持にもつながっているのです。
まとめ
生体腎移植ドナーだからといって特別な健康管理が必要となるわけではありません。腎提供後も健康を過信せず、定期通院や検診を欠かさず行い、レシピエントと共に健康な腎移植ライフを送っていただきたいと思います。
参考文献
1)Am J Transplant. 2009 Nov;9(11):2514-9.
2)Indian J Nephrol. 2016 Nov-Dec;26(6):423-426.
3)Transplantation. 2009 Feb 15;87(3):419-23.