<執筆> 静岡県立総合病院 腎臓内科 伊藤 健太 先生
慢性腎臓病患者さんの中で、特に腎移植を希望される方は腎移植前後でワクチンを確実に接種しておくことが非常に重要です。今回は、主に成人の患者さんにおけるワクチン接種の要点をお伝えします。
ワクチン接種はなぜ必要か?
理由は主に3つで、①各疾患の予防、②移植腎機能を長く保つ、③生命予後を改善する、ことです。
感染症を発症すると、そのあおりを受けて腎機能が悪化し、それがさらに長期的に腎機能低下のスピードを早めることにつながります。
また、発症した感染症自体ならびに、感染症を発症後には、心臓病のリスクが上がるため、それらにより命に関わる事態が増えてしまいます。ワクチン接種により感染症自体を発症させないことが非常に大切です。
ワクチンの種類
大きく生ワクチンと不活化ワクチンに分かれます。代表的な生ワクチンには、麻疹(はしか)、 風疹(3日はしか)、水痘(水ぼうそう)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、不活化ワクチンには、インフルエンザ、肺炎球菌、B型肝炎、破傷風トキソイドなどがあります。
移植前のワクチン接種
事前に血液検査にて抗体(各ウイルス、細菌に対するバリア)の有無を調べます。もし抗体がなければワクチンを接種します。
移植前のワクチン接種におけるポイントは3つで、①移植のため免疫抑制薬を開始するまでの期間、②生ワクチン接種、③腎不全の程度、です。
①に関しては、ワクチンは1回の接種で終了するものから、6ヶ月かけて複数回接種するものなどがあります。一般的に生ワクチンは免疫抑制薬を開始する4週間以上前までに、不活化ワクチンは免疫抑制薬を開始する2週間以上前までに接種する必要があります。移植までの残り期間が短い場合は、移植までにワクチン接種を完了できないことがあり、注意が必要です。
②に関しては、生ワクチンは免疫抑制薬開始後には接種できないため、移植前に確実に接種する必要があります。ただし移植前であっても、すでに治療のために免疫抑制薬を服用中の方は同じ理由から接種できません。
③に関しては、一般的に腎不全の程度が軽いほどワクチンの効果が高いので、慢性腎臓病のステージが軽い段階からワクチン接種を開始することが望ましいです。
移植後のワクチン接種
生ワクチンは前述した通り、免疫抑制薬内服中は接種できません。不活化ワクチンは一般的に移植後の免疫抑制状態が軽くなる3~6ヶ月以降に接種可能です。ただし、インフルエンザワクチンは例外で、流行期であれば移植後1ヶ月以降に接種可能です。
ワクチン接種により拒絶反応が誘発される、と心配する方がいるかもしれません。現時点ではワクチン接種と拒絶反応には明らかな関連性はなく、ワクチンを接種しないメリットよりも接種するメリットの方が高いと考えられていますので、確実なワクチン接種をお勧めします。また、移植後のワクチン接種に関しては、必ず移植の主治医の先生に確認するようにしましょう。
その他お勧めしたいこと
①患者さんの周囲の方のワクチン接種、②海外渡航前のケア、の2点を追加でお話しします。
①に関しては、特にインフルエンザワクチンの話になりますが、患者さんの周囲からバリアを作ることが非常に大切です。ご家族など、移植者と密に接する方はワクチンを接種して頂きたいと思います。
②に関しては、移植後は一定期間安定して経過すれば、自由に海外渡航ができます。その際、渡航先に応じて、ワクチンで予防可能な疾患を確実に予防しておく必要があります。トラベルワクチンと言います。このワクチンはトラベルクリニックで接種でき、そこではワクチン接種だけでなく、目的の渡航先で頻度が高い感染症の予防方法に関しても、詳しい情報を得ることができます。トラベルワクチンの中には、移植者が接種できない生ワクチンも含まれておりますので、渡航の際は前もって、移植の主治医の先生に相談するようにしましょう。
まとめ
腎移植前、後ともにワクチン接種を確実に行い、安定した腎移植ライフを送って頂きたいと思います。